(1)差別被害に関する早期の調査・検証2005 年にまとめた最終報告書において一定の検証がなされたにもかかわらず、完全に解明(2)差別による被害の回復への取組みこの「差別意識のない差別・偏見」に火が付き、燃え上がるという特性も指摘されている(内田 2006:500)。 6.差別の克服に向けて 以上で見たように、ハンセン病への差別は、歴史的に作られてきただけでなく、法律によ って、さらに強化されたものであり、しかも、その法律を超える差別までも生じてきた。とりわけ、熊本県におけるハンセン病差別は、個別の差別事件からも明らかなように特筆されるべきものと言える。 このような差別は、もちろん、日本国憲法が許すものではない。確かに、ハンセン病療養所に収容された入所者たちには、ハンセン病国賠訴訟を通して、一定の損害賠償が国からなされた。しかし、その家族も様々な差別の被害を受けたはずであるにもかかわらず、その救済はなされていない状況にある。また、ハンセン病差別による被害の実相は、「らい予防法」違憲国賠訴訟の成果として、厚生労働省によって設置されたハンセン病検証会議が されたわけではないのである。 ハンセン病差別の解明が遅すぎた好例としては、最高裁判所によるものが挙げられる。最高裁判所は、「ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査委員会」の調査結果を受けて、2016 年になって、特別法廷の運用が、裁判所法に反するものであり、「ハンセン病患者に対する偏見、差別を助長することにつながるものになったこと、さらには、当事者であるハンセン病患者の人格と尊厳を傷つけるものであったことを深く反省し、お詫び申し上げる」とのコメントを発表した。しかし、同時に、特別法廷が憲法の定める裁判の公開原則に反するものであったかについては認定できなかったとしている。この点については、最高裁の有識者委員会が、調査が遅すぎたために「時の壁」が作り出されたことに理由があると鋭く指摘している。このように、差別などによる被害の実相は、それに関する検証や調査が遅くなるほど、解明されにくくなるものなのである。 ハンセン病差別の被害が明らかにならなければ、どのようなことが起こるであろうか?差別の被害が正確に認識されなければ、差別の被害が再び繰り返されることになる。そのような事態を防ぐためには、その差別による被害を調査・検証し、その被害がどのようにして生じ、どれほどのものであったのかを検証し、あらゆる者が正しく認識できるようにすべきである。
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