図2 水の起源に関するH・O同位体比の模式図 に2.温泉科学の基本Cl-, SO42-、HCO3- を天水に比べ高濃度で含有しています。この化学成分における多様性す。つまり、温泉は、当初医療分野からスタートして、人々の健康と自然現象の調整役を担う環境省にバトンタッチされたのです。温泉法による「温泉の定義」は、さらに「鉱泉分析法指針」によって、様々な基準と実質的な運用に関するガイドラインが定められています。その中で医学的効能を有する療養泉として10種類(単純温泉,塩化物泉,炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、二酸化炭素泉、含鉄泉、酸性泉、含よう素泉、硫黄泉、放射能泉)が設定されています。 本講義では、多彩な療養泉を産み出す肥後の温泉の凄さを、温泉の特徴や発生メカニズムといった科学的視点から理解することを目的とします。その上で自己の体調に即した、温泉の科学的活用法を考察します。肥後の自然に抱かれながら、肥後の名湯を満喫しましょう。 世界の約10%の活動的火山が集中している日本は、確かに火山大国です。ですから、暗黙の了解として、火山大国=温泉大国と考えている人も多いことでしょう。しかし、温泉を生産し続けるためには多量の天水(海水、降雨・雪、河川水、地下水、湖沼水と氷床を含む)が必要不可欠で、熱源となる火山と高降水量は車の両輪となります。 温泉を作り出す水の起源に関しては、水分子を構成する酸素と水素の同位体比が目印として使われています。天水はδダイアグラム(図2)上に幅のある線分δ2H=8δ18O+ 10(天水線)として現れます。一方、マグマとともに地下深部から地表に運ばれてきた水分子は、同図の島弧マグマやマントルの領域に示されます。 δダイアグラム上で温泉水は、概ね天水の領域と重り、大部分が地下水起源であることを物語ります。つまり、世界の年間平均降水量の4倍近くに達しする阿蘇山における 3200mmの降水量が、肥後の温泉を支える陰の立役者なのです。 多くの温泉は、主成分として陽イオンには Na+, K+, Ca2+, Mg2+ を、また陰イオンにはを説明するうえで、天水とマグマおよび岩石の相互作用は欠かせません。明治~大正時代
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