熊本大学の教養教育 肥後熊本学
32/46

かけては、温泉療法の先進国であったドイツの泉質に関する科学・医療面の解釈を日本は取り入れました。現在の温泉法や鉱泉分析法指針はこの流れを踏襲しています。そして、温泉は、「地中から湧出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有する物をいう。」(温泉法第 2 条)と法的に定義され、普段使いの水(常水)とそれ以外(温泉)に区分されています。さらに、鉱泉分析法指針では、地中から湧出する温水および鉱水を鉱泉と再定義し、地上に湧出した時の泉温、液性および浸透圧に応じて区別し、化学組成に基づいた泉質名が規定されています。中でも、温泉医学の経験から効能が期待できる 10 種類を療養泉として提案されています(鉱泉分析法指針参照)。 熊本県内における温泉データをまとめ、療養泉の定義に照らし合わせると、よう素泉を除く下記9種類の存在(存在していた)が確認でき、それぞれの地域性を確認してみましょう。 単純温泉(53.0%):熊本県全域に単純温泉は分布していますが、特に県北部の平山温泉、山鹿温泉そして玉名温泉にアルカリ性単純温泉が集中しています。県南部では日奈久温泉や湯山温泉にも認められます。 硫酸塩泉(13.1%):熊本県では阿蘇カルデラ内の北部地域や黒川・小国といった第四紀の火山体近傍に広く分布しています。 硫黄泉(11.2%):熊本県では、比較的多い泉質であり、一部第四紀火山である国見山地を作る肥薩火山岩類周辺の湯の鶴温泉や花崗岩などの深成岩周辺部にあたる平山温泉や涌蓋山周辺のわいた温泉郷に分布します。 塩化物泉(11.2%):食塩が多く含まれる温泉は、八代海・有明海の周辺に塩濃度が 10g/㎏を超す高張性温泉が確認出来るほか、山中の温泉地である杖立温泉、黒川温泉、湯前温泉でも認められます。杖立温泉と黒川温泉は、それぞれ第四紀の杖立火山群と涌蓋火山群の分布域になります。 放射能泉(5.4%):熊本県北部の花崗岩地帯から湧出する単純温泉で、玉名温泉、平山温泉、山鹿温泉に認められます。花崗岩の分布地域ではありませんが、植木温泉にも一ヶ所存在しています。 炭酸水素塩泉(3.8%):菊鹿盆地の南縁辺部にあたる植木温泉や合志川沿いの温泉群,国見山地を構成する第四紀の肥薩火山岩類と人吉盆地の南西境界部、阿蘇カルデラ南東部、そして熊本平野の境界付近など、多数存在します。 二酸化炭素泉(1%):熊本県内では、宇土半島の西端と大矢野島の弓ヶ浜温泉や人吉盆地の南限で確認されています。二酸化炭素は、水に対する溶解度が小さいため、弓ヶ浜温泉以外は、全て20℃未満の冷鉱泉として湧出します。泉温 50℃の弓ヶ浜温泉は、遊離炭酸ガスが1000ppm で、ほぼ飽和状態にあります。 含鉄泉(1%):阿蘇山の夜峰火山の南西の地獄・垂玉温泉と牛深鉱泉から報告されています。どちらもの鉄硫酸塩(緑磐)として含まれています。

元のページ  ../index.html#32

このブックを見る