図7 コバルトブルーの温泉(わいた温泉郷) る事もあります。化石海水の温泉と類似の効果を期待するなら潮湯(海水を温めたお風呂)も良いでしょう。潮湯は、海水浴と同様に日本では、かつて健康管理の一環として行われていました。 一方、山中の火山近傍に産する塩化物泉は、溶存含有量が海岸周辺に比べ1/10程度ですが、泉温は逆に高く、多数の温泉が沸騰泉に近くなります(杖立温泉、わいた温泉郷、黒川温泉)。これは、図3に示したように、マグマと最後まで分離せずにいた臨界状態の熱水が岩石と反応してNa+やK+を溶かし出したと考えられています。一般にケイ素は高温でよく溶けるため、入浴に適した温度まで冷ますと過飽和の石英が微粒子として温泉水内に析出します。この微粒子が太陽光をレイリー散乱させるため、コバルトブルーに染まる露天風呂に変身します(図7)。 成分含有量の観点から、高張性温泉の対局を成す温泉が単純温泉となります。溶存成分が1000 ㎎/㎏未満であるものの泉温が 25℃以上であれば温泉となります。泉質の主要成分だけならまるで家庭のお風呂のように聞こえる事でしょうが、微量成分において全く異なる点があります。 その好例として療養泉である放射能泉や硫黄泉を上げることができます。更に、全国的には、pH9.5 を超すアルカリ性温泉が極めて珍しい(例えば、浅森 他、2002)のですが、熊本県内には30 カ所近く存在します。その内3 カ所はpH10 を超します。このようなアルカリ性の強い温泉を作るには、花崗岩質の岩盤が必要と考えられています(例えば、大沢・西村、2016)。この強アルカリ性の温泉は、熊本県北部に広がる花崗岩地帯や球磨地方の市房山が重要な役割を果たしたとみなせます。また、人吉盆地がかつて湖だったことを忍ばせる単純温泉として、褐色のモール泉が存在します(図8-1、8-2)。これは、淡水の湖に溜ま った植物由来の未分解有機物(フミン)がそのまま温泉に混入することで色が付きます。このように単純温泉の成因は、意外と複雑なのです。
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