熊本大学の教養教育 肥後熊本学
39/46

5.まとめ15,103-111. Ohsawa et al. (2007): Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals, Nature medicine, 13, 688-694. 湧出直後は入浴時還元剤として人体に作用します。しかし、浴槽に注がれて空気と十分反応したり次亜塩素酸で消毒されたりすることで還元性が損なわれます。そのため湯使いによっては、折角の温泉効果が発揮されない事もあります。そう言った意味で、最近は温泉の酸化還元電位(ORP)に注目が集まっています(図9)。還元環境が体にいい事は、水素水の研究(Ohsawa et al., 2007)でかつて一世を風靡しました。温泉による還元作用は、メラニン生成の抑制効果が期待され美白の湯とも考えられています。そうそう、美肌の湯といえば炭酸水素塩泉やアルカリ性単純温泉は欠かせません。これらの泉質では、温泉と皮脂が化学反応して石鹸成分が形成され (大河内 他,2007)、これらも美肌に一役買っていると考えられています。 入浴という行為は、基本的に人体と温泉水との化学反応ですから、温泉成分による効能を画一的に評価するのは危険だと考えます。つまり、禁忌症とはいかないまでも、各自の年齢や体調に応じて、オーダーメイドの泉質選択をしては如何でしょうか?体調と泉質のベストマッチングこそが効能をより効果的に活用できると期待されます。そう言った意味において、肥後の温泉は選択肢に事欠かない絶好のフィールドとなる事でしょう。 温泉は、自然現象の微妙なバランスで生み出された大地の恵みです。その惠は、地下資源としての側面を有しており、持続可能な活用には計画的な利用が不可欠となります。高齢化社会が進行する日本にとって温泉資源は、貴重な健康増進の宝だと言えます。肥後の名湯を賢く利用して守っていく事が今後ますます重要になってくるでしょう。 引用文献 大沢信二・西村進(編)(2016):温泉の地球科学―温泉を通して読み解く地球の営み,ナカニシヤ出版,xii, 189p.大河内正一 他(2012):皮膚のヌルヌル感に及ぼす温泉水の特性,温泉科学,62,237-250. 浅森浩一 他(2002):日本列島における火山周辺の酸性地下水分布,サイクル機構技法,小林哲夫・矢野徹(2007):南九州の地質・地質構造と温泉,温泉科学,57,11-29. 横瀬久芳 他(1999): 別府―島原地溝帯西部域の過去5百万年間における間欠的火山活動,岩鉱,94, 338-348. 横瀬久芳 他(1998) : 九州南西部矢筈岳火山岩類のK-Ar年代,岩鉱,93,151-161. 推薦図書 横瀬久芳(2016):面積あたり GDP 世界一位のニッポン ― 地震と火山が作る日本列島

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る