熊本大学の教養教育 肥後熊本学
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の研究を継続することとなった。また高月氏は九州で初めてAIDSの患者を受け入れ,ATLとともに熊本大学のHIV/AIDS臨床ならびに研究のさきがけとなった。彼の門下にはATLならびにHIV/AIDSの研究者が多数輩出しており,熊本大学より多くの人材を育てている。高月氏の患者から情報を聞き出す臨床家としての能力,さらにはその症例を新たな疾患概念としてとらえる斬新な発想力がATLという疾患概念を生む原動力になったと考えられる。ATLの原因ウイルスの発見と日沼頼夫氏 識,それを遂行する地道な努力がその根底にあったと考える。HIV/AIDS治療薬開発と満屋裕明氏 気はホモセクシュアルに多発し,カリニ肺炎など免疫が低下しないと発症しないような日和見感染症やカポジ肉腫を多発して死亡する奇病であった。この疾患はその他にも,全身のリンパ節腫脹,カンジダ食道炎,サイトメガロウイルス網膜炎,トキソプラズマ脳症,痴呆と多彩な症状を示す病気の症候群であり,免疫不全を伴っていたたATLが高月氏により新たな疾患概念として提唱された時,当時熊本大学医学部微生物教授であった日沼頼夫氏は,1980年京都大学ウイルス研究所に移動した。彼はATLがウイルスによってもたらされたものという考えを支持し,ATL白血病細胞からウイルスの分離を試みた。彼は熊本で長年B細胞に感染してリンパ腫や癌をひきおこすEBウイルスの研究を行っていた。彼は EBウイルスが感染した細胞に反応する抗体がEBウイルスに感染した人すべてから検出されることを応用して,同様の実験をATLについて行った。当時すでにATL細胞由来の無限に増殖する株化細胞が樹立されていたため,この株化細胞にATL患者の血液中の抗体が反応するかどうか確認した。するとATL患者の血液はすべてこのATL株化細胞に反応すること,ATL以外の人の血液は反応しないことを見出し,この抗体が結合するATL細胞内のタンパク質をATLA抗原と名付けた。このことはEBウイルス感染B細胞と同様にATL細胞には何らかのウイルスが感染していることを示唆しており,それがATLの原因ではないかと考えた。その後東大の医科学研究所の吉田光昭氏と米国癌研究所(NCI)のロバート・ギャロ氏によりレトロウイルスに属するHTLV-1が分離され,HTLV-1がATLの原因ウルスであることが確認された。日沼氏は,熊本の地で行われていたEBウイルス研究から培った技術をATLにいかすことで新たな発見へと導いたが,彼の飽くなき探究心と高い目的意1981年,国立疫病管理センター(CDC)の週報に新たな疾患が発表された。この病

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