09Kochi University of Technology要不可欠なものです。次世代の構造設計者である学生たちにこそ読んでもらい、この書籍を通して建築構造の発展に貢献したいと思っています」Cutting Edge耐震工学KEYWORD1Cutting Edge 最先端研究 03 建築物の構造形式として、鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨造(S造)は知っていても、RC造とS造を組み合わせた「鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)」は聞いたことがないという人は多いかもしれない。日本で開発されたSRC造は、耐震性能に優れた建築構造のひとつとして大規模建築物や高層建築物に採用されてきた。しかし、1990年代以降、設計・施工の煩雑さによる工期の長期化やコスト高が主な要因となり、建設棟数が激減。その一方、1995年に発生した阪神淡路大震災による建物被害調査の結果を見ると、SRC造の総合的な耐震性能は他の構造に比べて群を抜いていることが明らかになった。そこで、SRC造の高い耐震性を生かしつつ、より施工性に優れた建築構造として、2001年、鉄骨と繊維補強コンクリート(FRC)のみで構成される「鉄骨コンクリート(CES)構造」の研究開発が国内でスタートした。「CES構造はSRC造から鉄筋を取っ払う代わりに、コンクリート中にビニロン繊維を投入して強度を高めたFRCを用いることで、鉄筋がもつ“コンクリートの落下を防ぐ働き”を代替しています。鉄骨にFRCを打ち込んだだけの簡単な構造なので、SRC造で必要となる複雑な鉄筋工事が不要となり、高い耐震性を担保しながら工期短縮や建設コストの低減が期待できるのです」 鈴木准教授は学生時代からCES構造の実用化に向けた構造性能評価のための実験と解析に取り組んでいる。2022年5月、鈴木准教授らが分担執筆した「鉄骨コンクリート(CES)造建物の性能評価型構造設計指針(案)・同解説」が日本建築学会から刊行された。これによって、CES構造の実用化に向けた確固たる道筋が示されたといえよう。「この書籍の中で、私はCES構造における耐震壁の構造設計法と構造部材の解析モデルを解説しています。これらはCES構造の建物の設計に用いられる構造解析に必システム工学群鋼・コンクリート構造学研究室鈴木 卓准教授【専門分野】 鉄筋コンクリート構造、鋼コンクリート合成構造、耐震設計を行うことで、せん断力に対する抵抗力が上昇した一方で、試験体側面の基礎コンクリートの破壊が発生し、メリットだけでなくデメリットも生じることが確認できた。「実験と解析の両面から研究することで、理論上の計算だけでなく、実験から地震動に対するコンクリートの力の流れや抵抗を実証することができ、これまで考えられていた想定を数値的に示すことができるのです」 柱脚部の各実験では破壊に耐えられる最大の力も観測し、CES構造の設計を行ううえで必要となる部材の耐力評価式の提案につなげていこうとしている。 建築設計というと“意匠デザインする”ことが先にイメージされがちだが、学生たちには構造設計士として活躍してもらいたいという。そこには、「日本で建築に携わる以上、構造的な課題は切っても切り離せない」という鈴木准教授の思いが凝縮されている。地震による構造物の損壊や倒壊を防ぐために、構造物の設計や施工を行う学問。近年では、高層ビルや大規模構造物の増加に伴い、耐震工学への注目が高まっている。耐震工学の研究は、現在も世界中で活発に行われており、新たな技術や材料の開発が進められている。今後も、耐震工学の研究開発が進むことで、より安全で安心な構造物の実現が期待される。CES構造における柱脚部の構造性能を初めて明らかに CES構造の今後の普及が期待される中、鈴木准教授はこれまで検証が不十分だった建物と基礎の境界にあたる「柱脚部」に着目。ひび割れから破壊に至るまでの力学性状を解析するとともに、構造性能の力学特性を用いた建築物の耐震性能の研究を目下進めている。 内蔵鉄骨を有するCES構造の柱脚形式には、鉄骨を基礎の構造に埋込むか埋込まないかの2種類がある。非埋込み型は埋込み型に比べて施工性に優れているが、耐震性は埋込み型よりもはるかに劣る。「建物の設計・施工は工期、コスト、耐震性など、あらゆる要素が複雑に絡み合って実施されます。そのため、我々研究者は、設計者が状況に応じて最善の選択ができるよう、あらゆる場面を想定し、様々な形式の性能評価を行うことで、幅広い選択肢を提示することが重要だと考えています」 まずは埋込み型の試験体に地震動をイメージした力をかけ、ひび割れを観測する構造実験を行った結果、埋込みの深さが浅いほど、せん断力に対する抵抗力が低下すること、埋込んだ鉄骨を支えるベースプレートの有無によって抵抗力の大きさに差が出ることをそれぞれ確認し、CES構造における埋込み柱脚の構造性能を初めて明らかにした。 次に、非埋込み型においては、耐震性を向上させるため、ベースプレート下面に滑り止め補強を施した試験体を作製して構造実験を行った。その結果、滑り止め補強高い耐震性と優れた施工性を兼ね備えた「CES構造」の柱脚部に注目Chapter地震大国の日本で生きる、次世代の建築構造形式の確立へ
元のページ ../index.html#10