高知工科大学 KUT WAY 2025
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10分子溶液を塗布するだけの簡単な方法により、発光性をもつ有機無機ハイブリッド球体を創製。これに光を照射して閉じ込め、蛍光スペクトルの変化を測定した結果、球体内部で光共振が生じていることを見出した。つまり、この球体が光共振器の一種である「Whispering Gallery Mode(WGM)共振器」になることを示したといえるのだ。「WGMとは、光が円形の壁に沿って周回するモードのこと。例えば大きな円形ドームの中で声を出すと、音の波が壁を伝って反対側にいる人にまで聞こえます。WGMモードはこの現象と同じ原理です。光が球体の表面付近を周回し強く共振するので発振する光は鋭くなり、光出力の向上や光検出の高感度化につながると期待されています」 林准教授はこの発光性有機無機ハイブリッド球体をあらゆる基盤に塗布し、大面積化することで応用範囲は大きく広がると考えている。「この球体から発振されるコヒーレント光源※を用いることによって、レーザディスプレイや光ディスク装置などへの応用のほか、高精度な化学センサーとしての展開も期待できます。今私が考えているのは、iPhoneのチップにこの球体を多数集積し、人の呼気から健康を判断するセンサーを実現できないかということ。製造方法は簡便でありながら大きなポテンシャルを秘めた材料シーズの誕生といえるでしょう」Cutting EdgeKEYWORD1Cutting Edge最先端研究 04 光物性、電気伝導性、磁性など多様な機能をもつ有機半導体分子結晶は、次世代のフォトニクス・エレクトロニクスを実現するキーマテリアルとして期待されている。しかし、分子結晶は分子が集まった稠密かつ異方性の構造のため、高性能化が期待できる一方、柔軟性がないことから脆く壊れやすい。柔らかい結晶を自在に設計することができれば、材料分野に新しい風を吹き込むことができるのではないかー。そう考えた林准教授は、分子結晶の中でも特に機能性に優れたπ共役系分子を用いて分子構造から結晶設計を行い、常識ではあり得ない柔軟性をもつ単結晶の創製に成功。世界に先駆けて開発手法を発表し、有機材料化学に新たなイノベーションをもたらした。さらにこの柔軟性分子結晶が自ら発光する性質をもち、屈曲によって発光変化が起こることも見出した。 林准教授にとってこれらの発見はまさに好機到来。それ以降、柔軟性分子結晶の弾性変形機能と発光特性を生かした応用展開を精力的に進めている。ちゅうみつちゅうみつ理工学群林 正太郎 准教授【専門分野】 結晶工学、高分子化学、有機合成、有機材料化学KUT WAY 2025「レーザー光は真っ直ぐに進み減衰しにくいことから、遠方から情報を伝えるレーザー通信として利用されています。ゆくゆくは、極微小な光共振器を集積して大面積化することでエネルギーの活用が難しい宇宙空間で太陽光を一箇所に集め、地上への信号送信に使えるようなレーザー発振器の開発に取り組んでみたいですね」 また現在、主に使われている無機系のレーザー媒体を有機系に代替することができれば、コストやエネルギーの面で非常に有利になる。「弱い光を集積してレーザー光に変換する超省エネルギーなレーザー発振器の開発を“有機物を使って行う”ところに将来性を感じています。というのも、有機物は無機物に比べて構造に多様性がある一方で、応用科学で使われるのは単一の分子のみに留まっていました。ところが近年、有機化学と物理学の融合が進みつつあり、多様性を生かせる土壌が整ってきたのです。分野を横断した研究スタイルを貫いてきた私たちがその領域にアクセスすることで、新しい材料が生まれる可能性は大いに高まるだろうと確信しています」※光の位相や振幅が■った可干渉性(コヒーレンス)の高い光源のこと。レーザー光に代表される。柔軟性分子結晶林准教授は2016年、特異な電子・光物性を示すことから有機エレクトロニクス材料として用いられるπ共役系分子において、結晶構造中のわずかな動きに着目。独自に見出した構造設計・合成戦略により、稠密性・異方性・柔軟性をもつ単結晶を開発し、そこに発光性をもたせた新素材を生み出した。この柔軟性分子結晶は高分子を超える、新たな材料イノベーションにつながる成果として期待されている。有機結晶や高分子で多様な形の光共振器を開発 応用展開のひとつが、高性能で極微小な光共振器の研究開発だ。光を一定時間閉じ込められる構造をもつ超小型の光共振器は、閉じ込めた光で信号処理を行えることから省エネルギー化を可能にする機器として、レーザー発振をはじめとした様々なデバイスに応用されている。 林准教授らは、これまでに柔軟性分子結晶を用いた多様な形状の光共振器の開発に次々と成功してきた。さらには、シリカで合成した約5μの極微小な球体に発光性の高分野横断型の研究スタイルが新たな材料開発の鍵となる 光共振器はレーザー発振器の重要な構成要素としても用いられている。林准教授は「光共振器の研究開発をレーザーの展開にまで発展させたい」との思いもあるという。半導性に基づく発光機能などの発見により応用展開が加速Chapter多様性に満ちた有機材料で、超省エネルギーなコヒーレントフォトニクスを追究機能性高分子化学研究室

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