12を応用した画像の相互変換手法だ。GANでは、生成モデルと識別モデルの間で競争させることで、生成モデルが識別モデルに■されないように、現実的な画像を生成するようにAIが学習する。AG-CycleGANでは、生成モデルと識別モデルに加えて、注意モデルを導入する。注意モデルは、元画像の中から識別モデルの識別に寄与する領域を特定する役割を担っている。生成モデルは、注意モデルによって特定された領域を重視して変換を行うことで、より自然で精度の高い変換画像を生成できる。「注意モデルは、元画像の中から識別モデルの識別に寄与する領域を特定する役割を担っています。生成モデルは、注意モデルによって特定された領域を重視して変換を行うことで、より自然で精度の高い変換画像を生成します。つまり注意モデルの出力は、生成モデルが画像変換を行う際に重視した領域を示していると解釈することができます。そのため、注意モデルの出力を分析することで、生成モデルの画像変換の説明可能性を向上させられるというわけです」Cutting EdgeCutting Edge ソフトコンピューティングKUT WAY 2025KEYWORD1最先端研究 06 人は時に、判断を誤る。見間違いや聞き間違いをする。では、AIはどうだろう。「実はAIも“見間違い”をします。しかもその見間違いには人間と似た傾向が見られることがわかりました」と語るのは、ソフトコンピューティング研究の第一人者、吉田 真一教授だ。 同じ長さの線分の両端に矢羽を描く。ほとんどの人は外向き(><)に矢羽をつけた線分の方が、内向き(<>)に矢羽をつけた線分より長く見える。よく知られた「ミュラー・リヤー錯視」だ。AIにこの錯視画像を見せたところ、AIは人間と同じように(><)の方が(<>)よりも長いと認識した、と吉田教授は言う。「短く見える線分を少しずつ伸ばして、同じ長さとAIが認識する値をとってみると、人による実験結果と似た傾向が出ました。他の錯視画像を用いた実験でも、AIは人と同じような錯視の傾向を示しました」 このような結果の背後にあるのは、人の脳とAIの類似性だ。生成AIなどのベースとなっているニューラルネットワーク技術は、人間の脳の学習能力を模倣することで、コンピュータに人間のように学習させるという発想から生まれたものだ。AIが人間のように錯覚するのは当然なのかもしれない。吉田教授は言う、「人間が完全でないように、AIも完全ではありません。しかも厄介なことに、自ら作ったものでありながら人はAIのことを完全に理解してはいないのです。例えば、うまく学習させたAIが80〜90%の精度で正解を導き出したとします。しかしなぜ10〜20%間違ったのか、間違った判断の根拠がわからなければ信頼性が確保できません」 そこで吉田教授は、AG-CycleGANと呼ばれる技術を用いて、心肥大の判定システムの「説明可能性」(Explainability)の向上を図る研究にも取り組んでいる。AG-CycleGANは、敵対的生成ネットワーク(GAN)データ&イノベーション学群知能情報学研究室 吉田 真一 教授【専門分野】 知能情報学、機械学習、ニューラルネットワーク少時代を迎える日本では、社会のあらゆる場にAIが普及し人に成り代わって働かなければ立ち行かなくなるかもしれません。例えば、心肥大の判定システムも、過疎地域の医師不足を解消するために、高知大学医学部と共同で取り組んでいるプロジェクトです」 この他にも吉田教授は、担い手不足が深刻化する農業分野で、自動撮影画像によって作物の生育状況把握、出荷予測などを行うシステムの開発など、様々な応用研究を手掛けている。「AIの学習(ディープラーニング)では本来、膨大なデータをAIに覚えさせる必要があります。この学習を少ないデータ、しかも先にお話ししたGANを活用して自動生成した学習画像データで行おうという研究も進めています」AI活用の裾野を広げていくこと。AIを通して人間の脳の認識、記憶、推論などの仕組み、ひいては「人間とは何か」という問いに向き合うこと。吉田教授にとってこの2つの研究領域は「車の両輪」と言えるだろう。人間の思考や判断に近い、不確実性や曖昧さを扱う計算手法の総称。ファジィ理論、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズム、カオス理論などが含まれる。ソフトコンピューティングは画像認識や音声認識、医療診断、金融予測、ロボット制御など幅広い分野に用いられている。人口減少時代に備え、AI活用の裾野を広げる AIの目覚ましい進歩に「人の仕事を奪う」「AIが人を支配する」といった危惧を抱く人も少なくない。吉田教授はどう考えているのか。「私は、人間が楽になる、という楽観派です。これまでもオートメーション化は人の仕事を奪ってきました。しかし大量の失業者が街に■れる、なんてことは起きていません。産業構造や社会構造の変化などによって、新たな仕事が創出されるからです。むしろ人口減「AIが、なぜその解答にたどり着いたか」を検証するChapterAIの深層を探究し、人間の認知・思考の■に迫る革新的な手法によって、AIの活用領域を拡大する
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