13要因はどこにあるのだろうか。小谷教授は都市部と農村部の違いから、人間社会がどう進化してきたのかをとらえることでそのヒントを得ようと、日本、中国、バングラデシュ、インドネシア、ネパールで実験を重ねてきた。その結果、都市出身者に比べて農村出身者の方が自分より他人を思いやる「利他性」をもつ人の割合が高いことを見出した。 さらに、都市部と農村部で利他性をもつ人の割合が異なる要因を調べるため、被験者600人の唾液から採取したDNAの遺伝子配列から、利他性が先天的、後天的、どちらによるものかを明らかにしようとしている。そこには、利他性は持続可能な社会をつくるために重要な要素だという考えがある。「もし利他性が後天的なものであれば、その獲得は『生まれ育った環境』で決まるので、特に都市部の人々に利他性が備わるような環境づくりを行うことが重要だと言えるのです」 将来的に地球の人口の約7割がアジアとアフリカの都市部に集中すると言われる中、小谷教授には「都市部の人々がどんな社会をつくっていくのかを真剣に考えない限り、持続可能性が担保できない」という問題意識がある。だからこそ、都市部の人々が持続性への意識を高めるような社会の制度や仕組みの提案に力を注いでいるのだ。プは、もたない個人・グループに比べてより自己充足を高めるだけでなく持続可能で将来可能性を高める選択をすることを実証した。「将来世代を考慮することは将来世代に対する責任も負うことである。これを認識させるような教育の仕組みを導入すれば、一定の効果はあるでしょう」と語る。 また、現世代の行動が将来世代に大きく影響を与えてしまう場合、「説明責任」を課すことを制度化することで、人の行動や考え方が大きく変わることも、実験から確認したという。「これまでの間接民主制の上に新たな制度や仕組みを加え、さらに教育も変化させることで、近視眼的な視野を将来世代も含む長期的な視野へと変容させることが大切です。多くの人が過去・現在・将来という縦軸を意識し、ビジョン・ミッション・戦略をもち行動するようになれば、社会はより良いもの、つまり、今を生きる人々が自己充足しながらも持続可能性と将来可能性のために努力することが当たり前の文化になると確信しています」実験経済学Cutting EdgeCutting EdgeKEYWORD1最先端研究 07経済・マネジメント学群国際開発学研究室小谷 浩示 教授【専門分野】 実験経済学、環境経済学、国際開発学、持続可能性科学 過去50年の間に資本主義と民主主義が世界の主流となり、多くの国々や社会に経済的発展と多様な価値観をもたらした。一方、気候変動、教育、貧富の差、政府の債務超過といった国や社会の存続を脅かす深刻な格差と問題が生じている。「効率性や発展を追い求めた犠牲として持続性が損なわれているのではないかという危惧が、今世界中に広がっている」と指摘する小谷教授。「国や社会は如何に今を生きる人々の自己充足・持続可能性・将来可能性を担保し得るのか」を大きなテーマに据え、実験経済学のアプローチを中心とし、経営学、心理学、未来学の視点を取り入れた新しい学術分野のフューチャー・デザイン研究を行っている。 研究対象のひとつが、市場や取引のあり方だ。かつては売り手と買い手が対面で顔を付き合わせて交渉する相対取引のみが行われていたが、現在はインターネットオークションやオンライン、Electric Commerce取引の発展によって、相手の顔を知らない状況での取引、さらには転売や裁定取引が増えている。転売などが大量に起こる状況では、相対取引で存在していた相手との信頼・信任・責任、取引に伴う資源や時間消費によって、買い手と売り手の充足感、取引の持続可能性や将来可能性が損なわれるのではないか。そう考えた小谷教授はオンライン上での転売や利■のための取引が可能になることで起こる弊害を追究し、より健全な市場取引のあり方を提案するべく実験経済学的な手法でアプローチしている。「どういう市場の取引形態が社会や人々にとってより良いのかを考え、新たな仕組みを提案していきたい」と意欲を見せる。Kochi University of Technology理論の妥当性の検証や市場メカニズムの解明といった経済的な問題を、実験的な手法を用いて研究する学問分野。RePEc(Research Papers in Economics)による2016年の実験経済学部門の世界ランキングで、本学経済・マネジメント学群はアジアで1位に。さらに在籍する研究者の論文数などを総合的に見て、「アジア有数の実験社会科学ラボ」と評価された。都市部と農村部の違いから、持続性が損なわれた要因を探る そもそも現在のような持続性が損なわれた状況に至った「将来世代の視点」をもつことが持続性への意識を高める鍵 フューチャー・デザイン研究所の所長として、小谷教授が推進している研究において提案した新しい制度や仕組みのひとつが、「個人やグループが将来世代の視点を獲得したうえで、現世代の事象を判断し、自己充足・持続可能性・将来可能性のためにビジョン・ミッション・戦略を掲げ行動する」ことだ。実験の結果、将来世代の視点をもった個人・グルー国や社会は如何に自己充足・持続可能性・将来可能性を担保し得るのかChapter自己充足・持続可能性・将来可能性を担保できる社会をめざし、新たな制度や仕組みを提案
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