14がより主体的に関わる新たな官民の役割分担モデルを提案。費用面や損益分岐点分析によって、このモデルが事業の持続可能性の改善に有効であることを示した。「この結果を受け、鳥取県西部地域では行政が移動販売の一部を『見守り事業』として民間事業者に委託するようになりました。私たちの研究が移動販売の仕組みの維持に貢献できたと言えるでしょう」急成長するアジア各地に適用することをめざし、発展途上国のモンゴルにおいて、段階的な道路整備が環境負荷の軽減にどれほど寄与するのかを分析するなど、土屋教授の研究のフィールドやそのテーマは多方面に広がっている。「“土木”という言葉で土木計画学の世界を限定しないでほしいと思っています。土木計画学が扱うテーマは非常に幅広く、工学以外に経済学、経営学や心理学など多岐にわたる知識を総動員する必要があります。今後も持続可能性をキーワードに、社会全体を俯瞰しながら国内外をフィールドとした研究を続けていきます」Cutting EdgeCutting Edge 土木計画学KUT WAY 2025KEYWORD1経済・マネジメント学群地域・都市計画研究室土屋 哲 教授【専門分野】 国土・地域計画、社会システム科学最先端研究 08 人口や需要が減少の一途を■っている縮小の時代において、社会システムはどうあるべきか。この問いに対して、土屋教授は持続可能性をキーワードに、経営工学や経済学の手法を用いた多面的なアプローチで研究に取り組み、現実に即した様々な提言を行ってきた。 特に力を入れて取り組んできたのが、中山間地域における移動販売サービスの持続可能性の改善に関する研究だ。日常の買い物が困難な状況にある買い物弱者が増加する中山間地域では、民間事業者がトラックで集落を巡回しながら食料品などを販売する移動販売が人々の生活基盤を支えている。しかし、利用者の絶対数が少ないことに加え、居住地が山間部に点在し、事業の維持に多大なコストがかかることから今後の事業の継続が懸念されている。その一方で、移動販売は高齢者の安否確認や見守りなどの福祉的なサービスを兼ねるという観点から存在価値が高まりつつある。 このような議論が展開されている状況を受け、土屋教授らは、移動販売による買い物環境の改善効果を「買い物回数の変化」で定量的に評価する新たな方法を考案し、この方法により、鳥取県西部地域を対象に高齢者の買い物行動について実証分析を行った。具体的には、対象者を85歳以上、85歳未満、車の運転をするか否かでグループ分けし、移動販売があることでどの程度買い物回数が増えるのかを予測した。その結果、85歳以上の車の運転ができない人たちにとって移動販売の効果は大きく、買い物回数が週に一回増えることを見出した。「移動販売の効果を定量的に示したことにより、経営戦略を立てる民間事業者だけでなく、これを支援する行政に対しても、持続的なサービス設計の検討に役立つ情報の提供が可能になると考えられます」 また、従来の民間事業者が主体となって移動販売を行う体制は、事業の継続に限界があることを踏まえ、行政よりよい社会の実現に向けて、ハードとソフトの両面から社会基盤の整備やその活用のあり方を探求する学問分野。研究の範疇は、道路や橋、公園といったインフラに関わる問題にとどまらず、環境政策や防災計画、貧困対策など時代の変化に合わせて大きく広がりを見せている。“土木”という言葉で土木計画学を限定しないでほしい 豊富な森林資源を有する中山間地域では、地域経済の活性化や木材利用の促進、自立したエネルギーの創出などをめざし、小規模な木質バイオマス発電の取り組みが各地で行われている。原料の調達が必要な木質バイオマスにおいて、持続的な発電のためには資源の安定供給の面も考慮する必要がある。特に伐採した材木を加工場に運搬するには林道の整備が不可欠であり、林道へのアクセスのよい材木から伐採が進むと考えれば、時間の経過に伴って材木の運搬コストは変動することが想定される。 土屋教授らは、材木の運搬コストが変動し得ることを踏まえ、事業の持続可能性を検討した結果、将来的に運搬コストが大きくなると雇用者の所得を確保できない可能性があり、単独では事業の成立が難しくなることを見出した。「運搬コストの変動も考慮に入れて事業計画を考えることの必要性を示すことができました。地域の身の丈に合った規模での発電をめざすことが重要であると言えるでしょう」 さらに、日本が取り組んできた都市問題への解決策を持続可能な移動販売を実現する官民の役割分担モデルを提案Chapter持続可能性をキーワードに縮小時代の社会システムにアプローチする
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