07 人は安静な立位において、重心位置が前後・左右にそれぞれ数mm〜10数mm程度揺れる。その揺れと復元する力の関係からバランスを評価しているが、それ以上の大きな揺れがある場合(例えば神経性患者を計測する場合など)慣性センサを1台加えることで対応。こちらも高い推定精度を実現している。 同様に、糖尿病のケースでは、深部感覚の麻痺や神経系の遅れが出ることにより足首の感覚が鈍り、比較的前後への揺れが大きくなることがわかった。めまい、耳鳴りなどの症状が出るメニエール病の場合、5秒くらいの遅い揺れが起こっている。これらの知見は、園部准教授の重心測定法によって初めて明らかになった。「今後さらに症例数を集め、病気と重心バランスの関係性を解析していければ、今以上に医療従事者や患者さんに役立つツールになると思います」 このようなケースに限らず、園部准教授が開発した重心推定法を用いた医療分野への応用はまだ始まったばかり。今後データの解析が進む中で様々な分野での新しい発見の可能性があり、その成果が医療の分野をまた一歩前進させるかもしれない。医工連携医工連携とは、医療と工学を融合させた取り組みです。具体的には、医療現場のニーズを踏まえて、工学の技術やノウハウを活用し、新しい医療機器や治療法、システムなどを開発することを指します。Cutting EdgeKEYWORD1Cutting Edge 最先端研究 01 園部准教授が取り組んでいる研究のひとつに、小型パーソナルビークルの開発がある。その基礎的な研究として、人の動きに合わせて加減速して転倒を防ぐ電動スケートボードの開発を進めた。その際に、台車を振動させた時の応答を計測することで、倒れにくさなど個人のもつバランス能力を評価できるパラメータ同定法を開発。さらに、重心の計測を容易にするため、フォースプレートを用いた重心推定法を開発した。「研究活動の一環で医療機関の関係者の方と交流する中で、バランス能力低下の原因まで推定する診断技術に対するニーズが非常に高いことがわかりました。そこで、私が開発したフォースプレートを使った重心推定法を応用できるのではと考えたんです」 バランス能力を測るためには、姿勢と関節の力の変化を計測する必要がある。しかし、一般的に利用されている重心動揺計では圧力中心しか得られず、重心や姿勢の情報はわからない。一方、複数台のカメラとマーカを用いた3次元動作解析システムなど高度な計測法では事前準備や事後の処理が煩雑で、計測者と被計測者の双方の負担が大きく、設備の費用面のハードルも高い。 これらのことから、従来の重心動揺計と同程度の使いやすさで正確に揺れを測定し、重心や姿勢の情報も得られる計測手法の開発が課題であったが、園部准教授が開発した重心推定システムがそれを実現した。同システムでは、フォースプレートの上に立ち、足裏の力の計測のみから人の動きと力を推定することができる。所要時間もほんの数秒だ。しかも正確で、「簡易で精度が高い」のが最大の魅力となっている。「正確性はもちろん、医療現場で高齢者や疾患のある方などの計測を考えると、簡易に計測できる必要がありますが、この方法だと被験者の方の負担も軽減できます」とその優位性について語る。システム工学群動的デザイン研究室園部 元康 准教授【専門分野】 機械力学、制御工学、ヒューマンダイナミクスKochi University of Technologyけいずい複数の医療現場で導入され、新しい知見の獲得も 医療機関と連携し、いくつかの臨床現場でフォースプレートを用いた重心測定法はすでに利用されている。首の椎骨の中の神経が圧迫される頚髄症は症状として下半身や手足の痺れが出るが、その程度を見分ける方法は確立されていない。患者さんから症状を聞き、医師の経験則から状態を判断するしかなく、また治療法としては手術をするしかない。「手術のタイミングが遅れると治癒は難しい。一方で症状が今以上に進行しないケースもあって、むやみに手術をすることもできず、判断が非常に難しい。そのタイミングや手術の有無を計る指標として、患者さんの身体の揺れのデータを活用できないかと研究を進めています」 現状集まっているデータから頚髄症の患者さんは、重心位置が左右に数多く揺れていることがわかった。左右いずれかの足に偏ってかかっている力を感じた時、健常者なら補正してバランスを取るが、頚髄症により足裏の感覚が弱ってくると、補正できず左右に揺れるのではないかと推察される。この揺れの度合いが重症度の1つの目安となり、手術後の回復度合いを知る指標にもなり得るという。フォースプレートに乗るだけで簡易に重心位置を推定Chapter身体の揺れを簡単かつ正確に測るシステムが医療現場にもたらすイノベーション
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