高知工科大学 KUT WAY 2026
10/88

1Cutting Edge木灰に含まれる、セメントと同じ物質に着目環境負荷低減への新たな取り組み木 灰 コン クリートChapter09Kochi University of Technologyクリートを開発し、「物質循環」という観点から環境問「木灰だけで固まるようになるまでに3年かかりまし「高知県内のバイオマス発電所から依頼があったときは、木灰をセメントに混ぜて処分という話でしたが、それは面白くない。山から取った栄養分をコンクリートに入れたら最終処分ですよね。物質循環を考えたら、木灰だけで固められるコンクリートにすべきだと思ったんです」 研究の転機は、発電所での木灰の処理方法に着目したことだった。通常、木灰は強アルカリ性で危険なため水で中和される。しかし大内教授は、この中和処理をしない「生の木灰」を使うことで、より高い強度が得られることを発見した。 大内教授の研究は、単に新しい建設材料の開発にとどまらず、環境問題への積極的なアプローチでもある。従来のコンクリート産業は、セメント製造過程で多量の二酸化炭素を排出する。一方、木灰コンクリートは木質バイオマス発電の副産物を利用するため、新たな環境負荷を生み出さない。「木を植えればそれがコンクリートになるわけです」と大内教授は語る。「従来のコンクリートと全く同じように使えれば到達したと言えるかもしれませんが、質が違うわけだから同じにならなくてもいい」 日本のセメント需要を全て木灰コンクリートで代替することは現実的ではないが、用途を選んで適材適所で活用していくビジョンを描いている。 コスト面では、バイオマス発電から出てくる副産物を利用するという点で木灰コンクリートの原料コストはゼロである。現在は発電所が処分費用を払って引き取ってもらっている状況であり、これを資源として活用できれば大きな経済的メリットもある。大きな可能性を秘めた木灰コンクリート。大内教授は今後の展望を次のように語る。「強度としてはほぼいいだろうから、練り混ぜをもう少し簡単にしたい。それから砂利を入れずに、大きい木灰を骨材にする。あとは物質循環。木灰コンクリートがセメント硬化組織(セメントに水を加えて硬化した後に形成される組織構造)と同じようなものだとすると、放っておいたら分解しないんですよ。そこを工夫して、物質循環できるような仕組みを考えていきたいですね」木質バイオマス発電 所から排出される副産物の木灰を水と練り混ぜることで硬化する建設材料。従来のセメントを一切使 用せず、木灰に含まれる成分(酸化カルシウムや二酸化ケイ素など)のみで固化する。植物由来の材料を使 用するため、物質循環の可能性をもつ点が特 徴。粗骨材の活用、減水剤の添加、練混ぜ手順の最適化などにより、強度と軟度の向上が図られている。建設材料としての機能性を確保しつつ、環境負荷の低減を実現する次世代の建材として期待されている。大 内 雅 博 教 授システム工学群コンクリート研究室【専門分野】 土木工学、コンクリート工学Cutting Edge 最先端研究 03木質バイオマス発電所から排出される木灰を有効活用し、環境負荷の少ない新たな建設材料を開発する̶。大内 雅博教授は、従来のセメントを使わず、木灰だけで固めるという世界的にも例のない木灰コン題に対する独創的なアプローチを提案している。た。従来のコンクリートに対抗できる強度になってきたのは、ほんの2年前からです」と大内教授は振り返る。大内教授が10年という長い年月をかけて持続可能な建設材料の開発に挑戦し続けている背景には、環境や資源といった社会課題に対する深い問題意識がある。 従来のセメントは石灰石と主に粘土を原料とし、石灰石の炭酸カルシウムと粘土の二酸化ケイ素が反応して固まる。大内教授が注目したのは、木灰に同様の成分が含まれていることだった。K E Y W O R D従来のセメントを使わず、木灰だけで固めるという木灰コンクリートを開発キーワードは物質循環 。木質バイオマス発電の副産 物から、「植物由来」のコンクリートを開発

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る