1Cutting Edgeデータ農業、さらに人に代わって現場作業を担う先進技術の創出をAIとロボティクスの親和性Chapter11Kochi University of Technology思っています。例えば、この木は今年も、去年も、おととしもずっと調子が良い。この木は今年から収穫量が落ちてきたなとか、そういう診断ができるようになれば今後、担い手不足で農地を減らさざるを得ない時も、効率のいいところを残す適切な判断基準を示せます」2025年4月には高知工科大学に、「AI×ロボティクス」の現場応用をめざす「サイバーフィジカルインテリジェンス研究センター」が発足する。センター長を務める栗原教授は言う。「農業や福祉などの現場で、人間に代わって複雑で高度な作業を行うシステムの開発は、超高齢化・人口減少が進むこれからの社会に不可欠です。本学のロボット分野の先生方とともに、AIとロボティクスのより高次な融合によって、社会の課題解決に寄与する成果をあげていけたらと思っています」K E Y W O R Dは言う。そのため現在、小型でより安価な犬型ロボットの活用なども検討中だ。 意外なことに、栗原教授によれば、収穫支援はめざす研究開発の「副産物」なのだという。「もともと、Spotを導入した目的は情報収集でした。果実が何個なっているか、葉っぱが何枚になっているかなど、栽培情報を自動的に収集するために使うのが、本来の狙いだったのです」ユズには「隔年結果」という課題がある。枝葉を伸ばす栄養成長と果実を作る生殖成長のバランスが崩れやすいのだ。安定生産のためには、光合成を行う葉の数と果実の数を適当なバランスで保つ必要がある。栗原教授らは、自動運転などで使われるライダー(LiDAR)センサーをSpotに搭載し、自動的に果実の数と葉の数を推定するシステムの実現をめざしているのだ。「データ農業はすごく大事だと思っています」と栗原教授は言う。「何百本ものユズを1本1本管理するのは、人間の脳では困難です。コンピュータなら、それを全部記憶し、しかも10年分、20年分のデータを蓄積できる。その情報を管理して、問題点をうまく指摘できるようにできればとトが追う。農家さんが収穫したユズをロボットに取り付にじっと待 機 する。籠 が 一 杯 になると、農 家さんが「トラック」と声をかける。するとロボットは山の傾斜をものともせず、軽快な足取りでユズを軽トラックまで運ぶ―。2025年2月、高知県北川村で行われた、先端技術によるユズ収穫支援での実証実験の様子である。ビブスを認識するのだ。実用性に優れた音声制御もこのシステム の 特 長 だ 。「 S p o t つ い てきて 」「 S p o t 記 憶 」「Spotトラック」といったシンプルな音声コマンドで操作「2024年11月、初めて農家さんに実際に使っていただいあります。これはプログラムの改良などで克服可能な課Spotの価格は本体や充電装置などを含めると数千万円と高額である。「目標は軽自動車1台分程度」と栗原教授 山間のユズ畑。農家さんの後を、四足歩行型のロボッけた籠に入れる間、ロボットは、よく訓練された犬のよう 高知県は日本一のユズ生産量を誇るが、中山間地域特有の急傾斜地や不整地での作業は重労働だ。さらに農業分野では、生産人口の減少と高齢化が進行し、特に収穫期にまとまった労働力を確保することが難しくなっている。そこで栗原 徹教授たちが開発を進めているのが、四足歩行ロボット「Spot」を活用した収穫支援システムだ。 システムには人物追従機能と園地マッピング機能が備わっている。作業者がビブスを着用するとSpotが自動追従する。YOLOv8というAIを活用した物体検出技術でできる。Spotが果実を運搬している間にも、農家さんが収穫作業を継続できるため効率化にもつながるのだ。た時、こんなにすぐにスムーズに動かせるなら、すぐにでも実用化できるんじゃないかという声もいただきました。しかしまだ課題は山積です。例えば、草が多い環境では雑草を障害物と誤認識し、動作が不安定になることが題ですが、最大のネックは価格ですね」情報学群画像情報工画像情報工学研究室画像情報工【専門分野】 計測工学、画像センシング栗 原 徹栗 原 徹栗 原 徹 教 授教 授Cutting Edge 最先端研究 05AIとロボティクスは、互いに補完し合い、新たな可能性を切り拓く関係にある。AIはロボットに高度な知能を与え、複 雑なタスクの実行や、環 境の変化への適 応を可能にする。一方ロボットは、AIが処理した情報を現実世界で具現化し、相互作用を通じてAIの能力を拡張する。例えば、AIによる画像認識技術は、ロボットの視覚能力を高め、物体認識や状況判断を可能にする。また、強化学習によりロボットは自律的に行動を学習し、複雑な作業に習熟することができるのだ。四足歩行ロボットとAI技術で山間地でのユズの収穫を支援AIとロボティクスの相乗効果によって、農業、福祉など様々な現場課題の解決をめざす
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