1Cutting Edge消費文化理論の知見がマーケティング戦略のヒントにカテゴリーは消費者がつくる「場」から生まれる消 費 文 化 理 論ChapterKUT WAY 202614 この研究で紐解いてきた市場カテゴリーのダイナミクスは、企業のマーケティング活動に示唆を与えるものとなりそうだ。「渋谷系の代表格だったミュージシャンは、邦楽のカテゴリーではあまり目立っていなかったものの、渋谷系の視点から見ると、そのカテゴリの代表として存在感が際立っていました。つまり、既存の市場ではシェアの高くない製品でも、世間の注目を集めるためにその製品がトップになれるカテゴリーを生み出すという方法もある。この新たな視点を示したことは、ひとつの成果だと思います」モノやサービスにまつわる文化的側面をもつ消費者の行為と、それに関わる現象について、それらが生じるメカニズムを明らかにして理論化しようとする研究領域。消費者行動論の領域のひとつとして、20 05年に米国の研究者によって名付けられ、2010年、朝岡講師の恩師である一橋大学の松井剛教 授によって日本で初めて紹介された歴史の浅い学問分野である。のようにして形成されるのか」という素朴な疑問が発端だった。 そこで、渋谷系の形成から普及、衰退までのプロセスを明らかにしようと、渋谷系という言葉に基づいて行われたコミュニケーションとその社会・歴史的文脈に注目して分析を行った。分析に使用したのは、1,000件近くの雑誌記事や100件の新聞記事といった膨大な資料。さらに、渋谷系と呼ばれることになる音楽の場に関わっていた関係者やファンを対象にインタビューも実施した。 収集した情報を見ていく中で、渋谷系という言葉が登場する以前から、のちに渋谷系と呼ばれるミュージシャンを好んでいた人たちが集まるコミュニティがあり、東京のレコード店やクラブなどの場を通して、彼らが独自の趣味や価値観を構築していったことを突き止めた。 さらに、このコミュニティで生まれた共通認識が世の中に広まる発端となったのは、HMV渋谷店の邦楽担当スタッフが、このコミュニティが好む音楽を集めた売り場を設けたことであり、そこにメディアが注目し、渋谷系という言葉を用いて取り上げるようになったことから、新しい音楽ジャンルとして認識されるようになったことを示した。 さらに90年代後半に、渋谷系が衰退していったのは、渋谷系という言葉が渋谷の街で起こる現象を指す文脈で用いられるようになり、音楽ジャンルとしての影響力が低下したことが要因であると指摘した。 これにより、渋谷系音楽は一度衰退したが、2000年代以降、再び注目されるようになった。朝岡講師はこの再出現についても研究を進め、渋谷系が「90年代」という時代と結びついたカテゴリーとして再び評価されたこと、音楽に限らず現在の文化に影響を与えたことなどが再注目された要因であることを見出した。経済・マネジメント学群消費者行動・消費文化研究室朝 岡 孝 平 講 師【専門分野】 消費文化、消費者行動、マーケティングCutting Edge 最先端研究 08 私たち消費者は、ある製品を購入する際、無意識にそれが属しているカテゴリーを起点として選択を行っている。携帯電話は「スマートフォン」「ガラケー」、車は「ハイブリッドカー」「SUV」「ミニバン」などがその一例だ。 世の中で“分類”されているのは、製品だけに限らない。音楽、映画、料理など、私たちを取り巻くあらゆるものにジャンルが存在し、分類に至るプロセスには、文化と慣習が密接に結びついている。 マーケティング分野において気鋭の研究領域である消費文化理論を専門とする朝岡講師は、消費が形づくる文化的現象にフォーカスし、それらが生じるメカニズムを解明しようとしている。 例えば、近年、日本でハロウィンを祝う文化が浸透し、仮装した若者が集まり大騒ぎするという現象が生まれている。これも心理学だけでは解明できない市場や文化を背景にした消費者行動のひとつだ。「消費者行動論の中で、心理学的要因に還元できない消費者の行動について、各種メディアやインタビューなどの定性的な情報をもとに、市場や文化との相互作用にフォーカスし、理解しようとするところが消費文化理論の特徴です」 消費文化理論が日本で動き出す黎明期から、この分野 の 研 究を進 めてきた 朝 岡 講 師 が 、これまで自身のテーマとしてきたのが「渋谷系」音楽だ。渋谷系は、日本で1990年代に流行した音楽ジャンルであり、代表的なミュージシャンとしてピチカートファイブやオリジナルラブなどが挙げられる。音楽好きの朝岡講師が渋谷系をテーマに選んだのは、「ひとつの音楽ジャンルがどK E Y W O R D消費文化現象が生まれるメカニズムを解明市場や文化との相互作用から、消費行動を読み解く
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