工学部開いてみよう学問の扉 工学分野の魅力の一つは思想や理論と実践の行き来だと感じていますが、私たち建築家にとって、どのような価値を生みだせるかは最も創造的なところです。設計したものを実際に建てることで、利用者の生活や隣接するまちの様子がかわり、地域の文化が醸成され、より広い地域や人々へ波及し、やがて「新しいスタンダード」として定着していく様子は何事にも代え難い喜びです。 私は、大学時代に地球系と建築系で学び、国内外の建築事務所に勤務したのち、現在は建築系の教員として大学に戻り、設計事務所の主宰としてランドスケープと建築を橋渡しする設計に取り組んでいます。学生の頃に地球系と建築系の分野に同時に触れたことで、「建築」も「土木」も「ランドスケープ」も区別せずに同時に思考することが自身の作品の特徴に繋がっています。近作のひとつに大阪府池田市にある「満寿美公園」がありますが、これはみなさんの家の近くにもあるような小さな公園です。建築、土木、ランドスケープが一体になって地域に開かれた公園になっています。現存する小規模な公園の多くはブランコや滑り台など児童利用のために規格化され、他の世代には使いにくくなりがちなので、満寿美公園ではこれらの遊具をあえて撤廃した代わりに、起伏のあるドーナツ形状の丘を計画することで子どもの遊びや、より広い使い方にも開かれています。また、閉鎖的な印象になりやすい明確な入口や塀などの境界をなくして、四方のどこからでも公園内がよく見えるようにしたのも特徴の一つです。有事の際にも、みんなが自然と集まり、普段慣れた場所で安全に避難や待機ができる、新しい防災拠点にもなっています。 今、みなさんの周りにある制度や環境がつくる「当たり前」は実は流動的です。建築は長く残るものなので、今を生きる中で感じる肌感覚や違和感を契機に次の時代を想像し続けることが大切です。京大には、「変わっている自分」を肯定できる空気と、そこから生まれるユニークな発想を受け入れる環境があります。近接する専門分野の最先端がすぐそばにあることも新しい創造性に開かれています。みなさんも京大で多様な考えに触れ、想像力を磨き、新たな価値をつくりだしてください。先輩が教える 「自由」という響きに憧れて入学した京都大学で4年間の学びを終え、毎日が刺激的で充実していたと感じています。物理工学科では、工学の基礎となる数学や物理学をしっかりと学び、2回生から5つのコースに分かれて興味のある分野をより深く学びます。 それに加えて、セミナー、留学、交流会などを通して自分の専門以外のことを学ぶ機会も多くあります。無限の選択肢の中から何を選んでどんな4年間を過ごすのか。それを全て「自由」に決められるのが京大の最大の魅力です。 京大工学部の卒業生の多くは、大学院の工学研究科に進学します。研究室の多くは桂キャンパス(P76)にあり、世界最先端の研究設備が揃っています。また、工学研究科は京大でも高校の教科でいう物理・化学に限定した分野だけでなく、環境にやさしくかつ災害につよい街づくりや建築、情報科学、デザインや医療・生命系との融合的な分野もあり、「工学」というイメージから想像できないほどの広い領域をカバーしています。こうして学部の時よりもさらに奥深く、幅広く学んだ大学院生は、修了後、大学や国内外の研究機関はもちろん、政府機関や国際行政機関、国内外の民間企業へ就職し、社会に大きく羽ばたいています。 受験生の皆さんにとっては、まずは大学入試の合格が大きな目標ですが、是非その先も見据えて「工学」を志してください。■概要 工学部では例年9割近くの学生が、学科の学びが直結する本学の工学研究科、エネルギー科学研究科、情報学研究科などの大学院(修士課程)に進学します。その後も博士課程に進み、大学等の研究・教育職をめざす者も少なくありませんが、専門分野と密に関連する企業などの求めに応え、研究・開発・技術職に就くという進路も広がっています。■取得可能な資格 在学中に所定の科目を修得することにより、測量士、建築士、電気主任技術者、無線従事者、危険物取扱者、ボイラー取扱主任者などの資格取得に向けた学科試験の全科目、または一部が免除されます(卒業後一定の実務期間を経ることで受験資格が得られる資格もあります)。2023年度 卒業生の状況その他3.2%就職9.7%進学87.1%⼯学部/大学院⼯学研究科岩瀬 諒子 助教(新潟県立新潟高等学校出身)満寿美公園のまちにひらかれた境界部©Yosuke Ohtake⽯原 さえさん愛知県愛知県立旭丘高等学校 出身京都大学大学院⼯学研究科航空宇宙⼯学専攻2024年3月 ⼯学部物理⼯学科宇宙基礎⼯学コース 卒業卒業生京都大学の魅力「自由」の響きに憧れて。選択肢は無限に広がる大学院の紹介来たれ! 京大「工学」の大学院へ!!卒業後の進路53大学院工学研究科横断的な思考がつくる新たな価値。「当たり前」を疑うことによる創造性
元のページ ../index.html#55