■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■Hiroshi Kawanabe■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■トヨタのF1車体に搭載されていたエンジンの実物。前任の教員から譲り受けたあと、特注のアクリルケースに入れて打ち合わせテーブルとして使用。「ものすごい技術と素材が結集しています。見どころは語りきれません(笑)」 自動車などの乗りものをはじめ、身の回りのあらゆるものを動かしているエンジン。どんなエンジンにも共通するのが「燃焼」という現象です。自動車の動力の一部が電気に変わろうとする時代ですが、燃焼学の重要性は高まっています。石油をつかわない燃料の最適な活用や、燃焼以外の熱エネルギーを有効に利用する研究など、燃焼・熱という現象の物理・化学的な理解をとおして新たな価値が生まれる可能性はまだまだあります。大正時代から「内燃機関」の名を冠してつづく、私たちの研究室の使命に終わりはありません。 そんな私を研究につき動かすエンジンは、今も昔も自動車です。幼少期から大好きで、いまも自動車のこととなると語りが止まらない(笑)。仕事に選んだ工学的な部分だけで愛車(Lancia Delta Integrale 16Vの1991年式)と愛犬(手前からマリアとノエル)と一緒に。どちらも大切な相棒で、休日はいつも一緒に過ごしているなく、車の歴史や設計者にまつわる逸話などの文系的な側面も大好きです。そんな私のことを知ってか知らずか、大学院では指導教官から「エンジン以外を研究しなさい」と一言。エンジンから離れて燃焼の基礎を研究対象としましたが、自動車やエンジン研究の動向をチェックせずにはいられませんでした。結果的に、研究テーマを関心の中心から外したことで逆に専門領域が広がるという結果になったのですが、言われなくてもエンジンの発表を聞いたり、実験を手伝っている自分に気づき、「好き」の力はあなどれないと実感したものです。 「なにを〈おもしろい〉と思うか」が研究です。「おもしろい」を掘り下げれば、そこにはその人なりの観点がある。枝が風に揺れる現象を見て、同じように「おもしろい」と思ったとしても、流体力学の観点から見ている人がいれば、季節の変化に心動かされる人もいる。一つの現象がはらむ観点は多様。それぞれの「おもしろい」の着火点が進む道を示すヒントになってくれます。 例えば自動車づくりに必要な知識は大学で学べます。でも、それだけでは「いい車」はつくれない。どんな車がつくりたいのか、どんな車が社会に必要なのか。得た知識をつかうには、駆動力となるモチベーションが必須です。それは講義の中ではなく、みなさんの心の内にある。大学生活での経験、出会う人、自身の気持ちの動きを見つめて、自分だけのエンジンを整備して学生時代を走り抜けてください。かわなべ・ひろし滋賀県立膳所高等学校出身。京都大学大学院工学研究科博士後期課程単位認定退学。同大学院工学研究科助手、同大学院エネルギー科学研究科 准教授などを経て、2018年から現職。6Interview 3■■■■■
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