岡山大学 学術研究院社会文化科学学域 准教授人文基礎専攻 芸術学専修 博士後期課程78これをお読みの皆さんの中には、大学院進学を不安に思う方もあるかもしれませんが、私から言えることは、この環境で少しずつでも努力すればきっと何とかなるということです。偉そうにあれこれと書いていますが、私は凡庸以下の学生で、研究もうまくいかないことが多々ありました。今も試行錯誤の連続です。しかし、特別な能力がなくとも、周りと競い合いつつ一つ一つ積み重ねていけば、自分が目指す将来に辿り着くことができると信じています。自分が面白く思う分野を、ただひたすら勉強できるのは大学院の時間だけ。人生は一度きりです。皆さんもぜひ大学院で充実した時間を過ごしてください。もって専門性を高めながら、自分を表現できる居場所はやはり自分で作っていくしかないということです。台北の街を共に歩き、腹を割って話せる仲間は、五年もいた九州では得られなかったものでした。冒頭に述べた問いは、仲間のいる居場所を探して果てなく彷徨い、専門性という枠組みを利用しながら、自ら体現していかなければなりません。後輩の皆さんと分野は違えど共に頑張っていけたらと思います。大学・大学院ともに国語学・国文学研究室に所属していました。専門は国語学です。その中でも日本語の歴史・方言の歴史に興味を持って勉強しています。現在は江戸時代の方言を記録した文献や現代方言の様相等から、方言がどのような歴史を辿って現代のような姿になったのかを研究しています。過去の日本語の仕組みや現代語に至るプロセス・その要因を考えるのは難しくもありますが、一方でわくわくするものでもあります。また現代方言の調査では、自分の常識を覆されるような衝撃を受けることもあります。まだ誰も知らないことを発見する瞬間は、何物にも替えがたい興奮と喜びがあります。興味のあることを研究して生きていけるのは、本当に幸せなことです。大学院を修了してから10年が経ちますが、振り返ってみると国語学・国文学研究室は私にとって大変有り難い環境であったと強く感じます。大学院の授業は、過去の文献を読解し、問題点を見つけて解決するというものでした。授業や論文指導を通じて、文献の扱い方や言語に関わる専門的知識はもとより、理論と実証に立脚した論証方法、問題を多角的に検証し先行研究のみならず自分が出した仮説さえ何度も疑う慎重な態度、大きな歴史の流れの中で現象を動的に捉える視点など、研究する上で重要な力・考え方の殆どはこの研究室で学びました。また、ちょっとしたアイディアや素朴な疑問をすぐに研究室の先輩、後輩達と議論できるのも大きな魅力です。国語学・国文学研究室は多くの院生・学部生が所属していますが、同じ研究室でも扱う時代や分野が皆異なるので、様々な角度から意見が得られてとても刺激的です。和気藹々としつつ、一方で緊張感を持って演習に臨む。大学院ほど「切磋琢磨」という言葉がぴったりな環境もないでしょう。私たちは、なぜ作品をつくらないと生きていけないのでしょうか。掴み難く、生き難い世界は、絵の題材として描かれることで、束の間のあいだ、自分にとってリアルなものとして身体化することができます。ではリアルに生きていくとはどういうことでしょうか。私は、美学美術史研究室で、北宋山水画の研究をしてきました。後輩の皆様と共有したいことは、愚直な努力と工夫を藝術学の分野では、作品に触れた経験量が物を言います。幾度と国内外の展覧会へ出向いては、閉館まで展覧室に居座り、作品を見ることに多くの時間を費やしました。こうした経験の集大成である卒論は、読み返してみると稚拙な議論に気恥ずかしくもなりますが、寝食を忘れ没頭した当時の奮闘ぶりと文章自体がもつ爽やかさは、存外土台となってのちの自分を支えてくれます。なにより、自分の研究に真摯に向き合ってくれた指導教員から頂いた多くの言葉は、今でも折に触れて蘇り、研究に向かう姿勢を正してくださいます。現在は、台湾大学に留学しています。専門をもった留学は、言語による劣等感のほか、討論の際には基盤となるものの考え方が異なり、鍛えてきたスキルが通用せず自身を失うこともあります。しかし、そこで相手のやり方に合わせてしまうのではなく、積み重ねてきたものを信じて自分なりに表現していくことで、徐々に自らの立ち位置を改めて把握し、そのうえで国際的な研究状況を俯瞰的に理解できるようになってきました。俯瞰といえば、もうひとつ俯瞰すべきものがあるかもしれません。それは、大学や学界という既存の枠組みです。私は、父親が画家で、幼い頃からアジアを中心とする芸術家との交流に恵まれ、彼らをとりまくアイデンティティーの問題や、ときに研究者からの心ない不適切な評価が制作に如何に影響するか痛感してきました。美術史学における机上の論理の追求にいそぎ、作品や人物がそのために利用される素材として扱われることは許されません。今でも、故郷である沖縄や台湾のアーティストたちと、夜通し芸術について熱く議論することがあります。明け方、“お前と話してるといつもまた絵が描きたくなってくる”と、専門をもって高みを目指しはじめたときにやっとできた本質を語り合える質の高い仲間の言葉は、研究者とは一体誰のために語っていくのかと、常に方法論を模索する姿勢を育ててくれます。アカデミックな場で、文献を通し数百年前に生きた先賢との対話を試みながらも、街角で今を生きる彼らと共に既存の枠組みによって見えなくされているものを如何に明らかにし、表現していくか考えるとき、こうしたなかでひとつの役割として育まれるのが、自分の研究であると思っています。環境が人を育てる久保薗 愛 Kubozono, Ai 専門をもつということ前田 佳那 Maeda, Kana 先輩からのメッセージ Message from Graduates
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