九州大学 文学部 案内 2023
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歴史空間論専攻 イスラム文明史学専修 博士後期課程大和文華館、学芸員80そして2016年、現在の大和文華館に中国・朝鮮絵画担当の学芸員として就職し、2017年秋には「文人のまなざし―書画と文房四宝―」展の企画を担当しました。展示構成には今までの自身の研究成果も随所に盛り込み、過去の蓄積が展覧会という形で結実する喜びを味わいました。近年、数十万人が来場する伊藤若冲や葛飾北斎などの展覧会も、その土台には研究者達の永きにわたる地道な蓄積があります。今後も学芸員という立場をいかし、展覧会を通して美術史の新たな視座を広げ、より多くの人々に美術の魅力を伝えたいと思っております。後輩の皆様にお伝えしたいのは、「急いては事をし損ずる」ということです。効率や速度が重視される昨今ですが、大学には自身の興味に存分に向き合える環境と時間があります。一日一日を大切に過ごし、体験や考察を着実に自らの糧としていってください。それだけではなく、別の教育学部の方で行なっていた大学院ゼミにも出席させていただき、別分野の大学院生という歴史学とは異なるアプローチを取る人たちとの交流を通じて研究の視野を広げました。実際これは修士論文を執筆するための糧になったと思います。そのほかにも、単に受け身で勉強・研究するだけではなく、積極的に外部に自分の研究を示そうと思い、学内の研究助成金に応募しました。幸い、九大内部で募集があった助成金に採用していただいたこともあり、自信を少しずつ付けながら研究を行うことができました。この助成金と自費でトルコに史資料調査をすることができました。大学院時代に行った研究は、九州史学会をはじめとする学会報告に一部まとめて発表しました。もちろん事前に同じ院生同士で発表の前日に互いにその内容を確認しあいました。こうやって研究成果を部分的にであれ社会に還元するということをここで学んだのかもしれません。現在、私たちの研究室含め、九大の大学院では他大学から来た人々も含め、切磋琢磨し合いながら、各々自分の研究に向き合っています。みなさんもぜひ大学院で研究してみてはいかがでしょうか。私は2002年の学部2年生のときに、美学美術史研究室に進学しました。その後、修士、博士、専門研究員、助教と身分を変えつつ、14年間、当研究室にて研究を続けました。大学院進学は入学時から視野に入れていましたが、よりその想いを強くしたのは、当研究室の研修旅行においてでした。このとき美術館や寺社仏閣をまわり、たった一点の美術作品を何時間、一日中でも見続けることを初めて経験しました。向き合い続け、細部を注視するほどに、作品は歴史の重みや、かたちの美しさを雄弁に語ってくれます。一つの場所に坐していなければ見えてこない世界があることをとても魅力的に感じ、大学院にて美術史をより深く研究したいと思ったのです。中国明代絵画史の研究を志したのは修士課程からでした。中国美術の研究には、語学はもちろん、膨大な量の漢籍を読み、その内容を正しく理解することが要求されます。時間をかけて準備した訳文が大きく誤っていたり、論文や学会発表の内容に大幅な修正が必要だったこともしばしばでした。しかし先生や同学達と時間をかけて、正しい読解、よりよい内容を突き詰める中で、遅々たる歩みでも研究に誠実にとりくむことの大切さを学びました。諸先生方の研究に対する真摯な姿勢は、現在も私の研究者としての背筋を正してくれています。2013年に博士論文を提出した折には、ひとつ肩の荷が下りたように感じましたが、実際にはそれは通過点にすぎず、執筆の過程で新たに浮上した課題を引き続き考察中です。学部から大学院にかけて、どのように研究や勉強を進めたのかイメージしやすいように、私の事例を紹介したいと思います。私の場合は、学部・修士ともに九大でトルコ近現代史について研究を続けてきました。学部時代、研究室に配属されて右も左もわからず、不安の中、何をどう勉強すればいいのか迷い戸惑いつつも、大学院生の先輩方にも色々と教えてもらいながら、中東の各言語の講読や、論文を読むゼミなどに出席して勉強しました。大学院では、引き続き史資料を講読するゼミに出席しました。また大学院生に課せられたゼミ作業の一環として学部生の発表のチェックも行いました。そのときに学部生がどういう理解でゼミの準備をしたかを聞くことで、様々な気づきを得ました。そういった意味では学部生たちからも研究や勉強のやり方のヒントをもらったのかもしれません。また同じ研究室の院生たちだけでなく、西洋史研究室の大学院生とともに週一回行われる合同ゼミで、自分の研究の進捗を報告し、様々なアドバイスをいただきつつ自分の研究を進展させました。同じ歴史学に所属しながらも全く異なる地域を対象にしている研究者の批判や助言に刺激を受けつつ、適宜自分の研究を修正・発展させました。先輩からのメッセージ Message from Graduates1つのことに向き合う都甲 さやか Toko, Sayaka 仲間たちとの研鑽の場坂田 舜 Sakata, Shun

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