9情報の流通に関する様々な法的問題について考えていきます。Q.情報法を学ぶ意義としてどのようなことあるのですか?まず、今日の情報技術が発展している社会では、情報に関する法的問題が身近になっているため、社会生活を送る上でこの分野の知識が不可欠のものとなっているということです。日々暮らす中でも私たちはスマートフォンなどを通じてインターネットから情報を得て、SNS上で友人とコミュニケーションをとり、また電車に乗るとICカードを通じて情報が収集され、コンビニでお茶を買うだけでもポイントカードにより購買履歴が収集されています。こう考えると私たちは情報と無縁で生きることができませんが、そうした時に個人情報の保護や表現の自由など様々な法的問題が絡んできます。また、情報技術の発達にともない、自由や民主主義など近代社会の根本的な価値が問い直されるようになっています。例えば、最近ではフェイクニュースによって選挙結果が歪められるリスクが懸念されていますが、これは、自由な個人が多様な情報を吟味して理性的に判断し、政治のプロセスに関わることで民主主義が実現されていく、という近代社会の前提が問い直される問題でもあります。また、AI(人工知能)はマイノリティーに対して不公平な判断をする傾向があると言われていますが、このことは翻って、そもそも従来の社会において人はマイノリティーに対して公平な判断をしてきたのかを問い直すことにもつながります。情報法は、情報技術の発展に伴う最先端の問題を追うだけでなく、自由、平等、民主主義など近代社会の基本原理・価値がそもそも何だったのかということを、情報技術が投げかける問題をきっかけに問い直していく学問でもあるのです。みにふと疑問を抱いたことがありました。一見当たり前のように見える所与の世界が本当に正しいのか、あるいはそれらがどのように作り出されたのかという疑問、それが近代の正体を探るということに繋がっていったというわけです。Q.高校生へのメッセージをお願いします。図書館などを利用して、興味を持った本は積極的に読んでみてください。先ほども言いましたが、私が政治学史という分野に興味を持ったのは高校時代の一冊の新書との出会いがきっかけでした。受験勉強に追われながら自分の時間を確保するというのはなかなか困難かもしれませんが、ぜひ良い本と出会ってください。ふと手に取った本が自分の興味を引き出してくれることもあるのです。そうすることで自分の周りの世界が全く違うものに見えてくるかもしれません。従来は、法律や道徳などにより私たちの自由は制約されていましたが、今日ではアーキテクチャと呼ばれる、物理的・技術的な手段によって私たちの自由は制約されるようになっています。例えば、スマートフォンにフィルタリング設定がされている場合、自分が興味のあるウェブサイトを見ようと思ってもブロックされることがあります。従来は、校則や親の言いつけなどで自由が制約されていたとしても、こっそりと破ることができ、また禁止されている行為であっても様々な事情から正当化される余地がありました。しかし、技術的に行為の可能性があらかじめ制約されてしまうと、逆らうことができなくなり、また、本当は正当化される行為であったものでも制約を争う余地がなくなり、見えないうちにあらかじめ私たちの自由が奪われていきます。ここには、個人の自由にとって根本的な問題が潜んでいるのではないかと思ったことが、研究の原点です。Q.高校生へのメッセージをお願いします。法学部を目指す高校生の皆さんには、法律の専門知識を今から勉強する必要はありませんが、哲学や歴史など人間や社会に関する問題について扱った本を幅広く読んだり、友だちを話したりして、関心を広めてもらいたいと思います。大学に入ってからも、これは何か違和感があるなと思ったことや、これって何だか面白いなと思ったことなど、自分の中の小さな疑問や好奇心を大切にして学び続けてほしいと思います。伊都キャンパス・椎木講堂講義紹介講義紹介Q.情報法を研究するようになったきっかけは何ですか?元々、法哲学や政治哲学、その中でも特に自由論や権力論に関心があり、個人が自由に選択するとはどういうことか、私たちはどのように権力の影響を受けて行動しているのかということに興味がありました。そんな時にローレンス・レッシグというアメリカの情報法学者の『CODE』という本が2000年代初めごろ日本に紹介され、日本でもそれを受けて社会学者や法哲学者らが情報社会における自由の行方について議論するようになっていたのですが、彼らの議論を読んでいく中で、自由や権力の在り方が情報技術の発展によって根本的に変わってくるのではないか、そうであれば情報技術がもたらす具体的な問題を踏まえ自由の保障のあり方を考えなおす必要があるのではないかと考え、情報法を学んでみようと思いました。政治学史Q.政治学史とはどのような分野ですか?他の大学では「政治思想史」とも言われる分野で、古くはプラトンやアリストテレスなどの古代ギリシャの思想から、20世紀の思想までの2500年にも及ぶ政治学の歴史を追いかける分野です。具体的には、個々の政治思想家や、デモクラシーや自由、国家などの政治的概念の歴史的な展開について研究しています。Q.講義ではどのようなことをやるのでしょうか?基本は時代順で、プラトンやマキャベリ、ホッブズなどのそれぞれの時代を代表する人物と古典を中心に見ていく講義です。高校の授業では著者とその著作をセットで覚えるというところまでに留まっていたと思われますが、この講義ではそれらの作者が、政治や国家などについて具体的にどのようなことを考えているか、またテクストの中でどのようなことが論じられているか、といったことまで踏み込んでいきます。Q.古典を研究対象とした理由はなんでしょう?いくつかあるのですが、大きなものとして今の時代の基礎となっている近代ヨーロッパの正体を探ってみたいというのがあります。言い換えると、今現在の私たちの価値や規範、あるいは政治や国家などの正体とは何かということを解き明かしたい、というような感じです。さらに、そのような考えを持つようなきっかけとして、高校時代に、世の中の規準や仕組情報法木村 俊道 先生成原 慧 先生Q.情報法とはどのような法律ですか?情報法とはインターネットやメディアなどを通じて流通する情報に関する法的問題について研究する分野です。例えば、身近なところでいえば、インターネットで海賊版サイトから漫画をダウンロードして読むことは(なぜ)違法ではないのか、ツイッターに自分の写真が勝手に掲載されることはプライバシーの侵害にあたるのかなど、
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