4法学部に入ったからといって、九大では、―東大や京大も同じですが―法学の授業がすぐに毎日始まるわけではありません。法学は「大人の学問」とも言われますが、きちんと理解するのが難しいところがあり、いきなり1年生から法学にどっぷり浸かるよりは、最初の半年や1年、歴史学、哲学、論理学などの一般教養(と外国語)の勉学に費やした方が有効だという考えからです。また、せっかく総合大学(University)に入ったのに最初から最後まで専門の勉強のみというのは、もったいないとも言えるでしょう。とはいえ、法学部に入ったのに法学の授業がゼロではそれもまた面白くない…。そこで九大法学部では、1年生の前期に講義科目「法学入門」と「政治学入門」を提供しています。この講義では、1年生全員が入る大教室で、教員が90分間、延々と一方的に話し続けます。このような授業スタイルには、高校の授業に比べれば約2倍の長さがあるし、先生は教室の前の方でマイクで喋っているし、皆さんの多くは、法学部では「法」について学ぶことができる、と考えていることでしょう。もちろん、間違いではありません。しかし法学部では、法学だけでなく政治学も学ぶことができます。法学部が法曹養成だけでなく公務員養成という社会的役割を担ってきたため、法学と政治学という二本立てになっているのです。しかし、それだけではありません。二本立てになっているのは、そもそも法と政治が密接不可分であるからでもあります。法は「政治の世界」で制定され、時に解釈・運用されています。他方、政治は「法の支配」という理念の下で行われています。法学と政治学という二本立てになっているのには、こうした実際的・本質的理由があるのです。さて、皆さんが九州大学法学部に入学すると、他の基幹教育科目に加えて、さっそく法学入門と政治学入門を受講することになります。政治学入門では、90分×15回の授業を通じて、日本政治に関する基礎知識を学んでいきます。特に工夫しているのは、次の二点です。まず、可能なかぎり一次資料に基づいて、日本政治の実態を理解するように心掛けています。たとえば、政治にカネ(政治資金)がかかると言われますが、そのことを一般的知識として学ぶのではなく、首相の政治資金収支報告書を分析することを通じて具体的に学ぶようにしています。一次資料を記載した詳細なレジュメを配布しているのは、そのためです。もう一つ工夫しているのは、討論の機会を設けるようにしていることです。いうまでもなく、異なる意見を持つ市民同士が討論し、時に自分の板書もほとんどないし、出席確認も宿題もない…と戸惑うだろうと思います。板書やプリントの無いなかで、学生は集中して先生の講義を聞き、何が重要で何が重要でないかを即座に判断し、ノートにまとめていかなくてはならないわけですから、90分講義が終わると多くの学生はヘトヘトになります。しかしこういう努力を続けることによって、他人の難しい(退屈な?)話を聞き、考え、まとめるという、将来どのような分野に進むことになっても必要になる能力を身につけなくてはならないのです。法学部は昔から「潰しがきく」などと言われ、実際さまざまな分野への進路が存在しています(決して全員が司法試験を目指すわけではありません!)が、実はそれは、このような法学教育の(一見すると退屈そうな)スタイルが様々な分野で活躍できる「強い頭」を育ててきたからかもしれません。法学の勉強は、一に読むこと、二に読むことです。教員が薦めるさまざまな本や論文を読み、考えること(さらに自分の考えたことを友人と議論すること)が法学部では不可欠です。そしてそもそも法律とは、社会を良くするための道具です。したがって、読書好きで、日本や世界の様々な問題に関心がある(=日頃から新聞をきちんと読んでいるような)高校生は、法学部にとくに向いているでしょう。退屈そうに見える講義でも、聞き続け、考え続け、そして家や図書館で読み続けると、あるとき突然面白くなってくるはずですよ。いかにも昔ながらの大学らしい「法学入門」の講義、どうぞお楽しみに!意見を変える勇気を持つことが、民主政治においては決定的に重要です。それを学ぶ機会は、しかし、決して多くはありません。そこで政治学入門では、「住民投票は是か非か」、「衆議院にふさわしいのは小選挙区制か比例代表制か」といった論点をめぐって、主要な論拠を検討し、受講生同士で討論した後、Moodleで投票する、ということを試みています。写真は、法学部1年生が選挙制度をめぐって討論している姿を写したものです。政治学入門の授業評価は、法学入門の授業評価と同じく、インターネットで公開されています(九大法HP→在学生→法学部生→時間割・シラバス等)。授業の雰囲気を知るためにも、ぜひご覧になってください。講義紹介南野 森 先生講義紹介岡﨑 晴輝 先生法学入門政治学入門講義紹介法学部1年生
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