九州大学 法学部 2023
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5皆さんは、アサガオの観察をしたことはありますか。どの視点に着目して、どのように観察するのかによって、発芽時期や様子、葉脈の展開、花のつく時間などいろんな研究結果が出ますよね。憲法学もこれに似ています。憲法はどのようにできたのか、そもそもなぜ憲法があるのか、いま憲法がどのように機能しているのか、憲法と他の法との関係はどのようになっているのか、他の国の憲法はどうなっているのか(比較憲法)、などなど多角的な「理論的な研究」が行われています。また、「実践的な研究」も多々あります。憲法の定める国の仕組みの根幹にかかわる政治や行政の改革に対する分析や評価、また感染症対策のように政策により人の自由が制限される場合の人権保障の問題への取組みなど、憲法の文言や趣旨をいかに実現するか、日々研究が重ねられています。Q.法学部で養われる力とはどんなものですか?まずは、論理的思考力です。事件を法的に解決するには、法解釈を通じて、事件の事実(物を壊した)に法(器物損壊罪という刑法や、損害賠償を定めた民法)を当てはめて解決します。このとき、事実の整理と当てはめる法の解釈を通じて結論を導き出す訓練は、論理的思考力の向上に役立つでしょう。また、議論の力です。議論の際に、相手の主張との争点を抽出する力と、論拠をもって反論する力もつくでしょう。意外なところでは、法概念の厳密さに触れ、言葉づかいに敏感になるように思っています。Q.先生がご専門にされている分野があれば教えて下さい。憲法のなかでも、主に「行政権の統制」を研究対象としています。今日の行政権には、「集中」と「分業」の二面性があります。例えば、首相の権限強化という中央への権力集中が指摘できる一方、もともと行政権がしていた仕事を民間事業者などに任せる民営化や、コロナ対策でも見たように、専門家の見解に委ねざるを得ない専門特化も現代の特徴です。これらは、何も日本に限らず、世界的な現象です。とりわけ、ドイツでは、これらを法律や裁判によって統制しようと取り組んでおり、法律や裁判で十分に規律していない日本からすれば大変参考になるため、ドイツの憲法学との比較研究をしています。とはいえ、テロや戦争、はたまた感染症などへの対応に迫られると、こうした法的統制がないがしろにされる恐れがあり、そうした事態での権限行使の統制の仕組みも必要だと考えています。Q.高校生に一言お願いします。法学部(法律学・政治学)は、多様な問題関心を受けとめることのできる器の大きな学部だと思います。現に私は、高校生のとき、哲学に関心がありましたが、法学部ではその関心を深めることもできました。大学で何ができるかではなく、何がしたいか、が大事ではないでしょうか。社会に出ていかに活躍するかを見据えて進路選択をするもよし、純粋に学問的関心から飛び込むのもよし、いずれにせよ、自ら選んだ道は、いつか自らをも満たす花となるのではないでしょうか。講義紹介憲法講義紹介刑法Q.「憲法学」とはどんな学問ですか?一般的には、憲法9条をどう考えるのか、といった特定の条文や論点が取り上げられがちですが、「憲法学」は、端的に、憲法という対象を観察することです。憲法は、「最高法規」とされるように、国内の法の最上位に位置づけられています。したがって、「すべての法は憲法に通ずる」とでも言いましょうか、憲法の研究をしていると、ほかのさまざまな法分野を見ることができます。Q.法学部ではどんなことを学びますか?法学部では主に法律や政治学について専門的に学びます。法律と一言でまとめられていますが、目的によって様々な法律があり、国によってその中身も多種多様です。それらの法律を過去の裁判所の判決や学者の方の体系書などを読み解きながら理解していきます。そしてこれらを通してリーガルマインドというものを身に付けていきます。論理的に考える「思考力」、裁判所の判例などを読み解く「理解力」、議論の中で自分の意見を伝える「コミュニケーション能力」など様々な能力がこれに含まれます。この能力は法学の分野に限らず多くの分野で必ず役に立つはずです。Q.冨川先生のゼミはどのような活動をされていますか?私のゼミでは特定のテーマに絞り、それに関する判例調査を行っています。特に現在は、どこから未遂犯になるのかというテーマを何週間もかけて取り組んでいます。みなさんの高校での学修や法学部の講義の授業はいろんなテーマを広く浅く学んでいくのでかなり異なる学修だと思います。少人数で長期間、一つのテーマにとことん取り組んでいくと、今までの学修では考えられなかった新たな発見があります。Q.高校生に向けてメッセージをお願いします。法学部だからこそ出来ることは法律に触れることです。そして法律を扱うためにはあらゆる分野の様々な知識が必要となってきます。九州大学法学部に興味を持たれたみなさんは知的好奇心のある方が多いと思われますので、きっと法学に楽しさを見いだせるはずです。そして法学を学んでいく中で養われていくリーガルマインドが、みなさんの将来にきっと役に立つはずです。高橋 雅人 先生冨川 雅満 先生Q.刑法とはどのような法律ですか?刑法は、何をすれば犯罪となるのか、どのような刑罰で処罰されるのか、を定めた法律です。この法律では、いろんな面でバランスをとることが大事になってきます。人の利益を守るためには積極的な処罰が必要となると考える反面、刑罰によって人の自由を制約するものであるのだから消極的に罰さなければならないとも考えなければなりません。また、あらゆる個別的な事情に条文を当てはめるため柔軟性が必要となる一方で、ルールとしての役割があるから安定性も必要になります。このような正反対の性質を常に考えなければならないのが刑法です。Q.刑法学の魅力とは何ですか?刑法学は、実践的な学問でありながら哲学的な学問でもあるという特徴があります。犯罪を行う人がいる以上、刑法には実用性が求められます。しかし条文を適用するには、解釈が必要となり、そこでは多くの難題に遭遇します。殺人罪を例にとって考えてみましょう。「人を殺す」という行為が殺人罪に当たるのですが、「人」とは何か(胎児や脳死状態の患者は?)、そもそも「殺す」とはどのような行為なのか(道端で急病状態の人や自殺しそうな人を放置した場合は?)など、条文を現実の事案に適用するためには、多くの問題を明らかにしなければなりません。このように刑法は実用性を求め、突き詰めていくと哲学的な物事の根本的な問いに行きつくのです。法学部2年生

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