九州大学 農学部 ガイドブック 2024
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13 近代農業は生産性を劇的に増加させましたが,効率化を重視した結果,環境負荷が増大し様々な問題が顕在化しています。増加する食料需要に対応して,現状の環境を維持しながら生産性を増加させる持続的な農業が求められています。 農学分野は,農学部の設立当初から研究室の構成がほとんど変わらない農学部で最も歴史のある分野です。生物の生命現象を遺伝や無機・生物環境における生物の反応や,生物間相互作用を科学的に解析し,得られた原理を応用して農業生産技術の向上と人類の生活環境の改善・維持を図り,食料安全保障や地球環境問題の解決を通じて社会に貢献することを教育・研究の目的としています。 本分野は,植物育種学,作物学,園芸学,植物生産生理学,植物病理学,昆虫学,昆虫ゲノム科学の7つの研究室で構成されており,イネ,イモ,マメなどの食用作物,作物化が期待される有用資源植物,野菜,果樹,花などの園芸作物,植物病原体を含む微生物,昆虫類,カイコなど多岐にわたる生物を対象として,遺伝学,生理学,生化学,生態学,形態学,分類学等の基礎的知見を背景に,近年,著しく進歩した生命科学的手法であるゲノム解析,遺伝子発現解析,及び組織培養や細胞融合等のバイオテクノロジーを駆使して,対象生物の基本的な特性や有用形質を明らかにし,その成果を用いて,新品種の育成,農作物の生産力の向上や安定化,病害虫の管理法,及び生物農薬や天敵利用技術の開発などの応用技術の開発や社会実装等を目指して教育・研究を行っています。ムギ類の「穂発芽」と,子実アリューロン細胞プロトプラスト(DCFDA蛍光発色)における活性酸素,GA,ABAによる発芽制御機構 ムギ類の収穫期が梅雨と重なることで発生する穂発芽現象は,胚乳のデンプンが分解され粉質が著しく低下します。オオムギ子実のアリューロン細胞では,活性酸素(ROS)が,植物ホルモンのGAやABAシグナルの制御因子となりα-アミラーゼを誘導して発芽を調節していることを示しています。農学分野長 安井 秀カイコ幼虫頭部蛍光を発する幼虫単眼蛹の脳視細胞原基正常な複眼光沢小眼突然変異体生物資源生産科学コースカイコ突然変異体を用いた遺伝子機能解析の一例神経細胞特異的なプロモーターの制御下に発現するDsRedをマーカーとした,遺伝子組換えカイコを用いた光沢小眼突然変異体(ve)の解析 光沢小眼突然変異体の成虫複眼は小さく光沢を持ち,正常な視神経細胞はほとんど認められません。しかし,光沢小眼突然変異体でも幼虫単眼は正常型と変わりないことから,成虫複眼の個眼は幼虫期の単眼に由来しないことがわかります。環境ストレスに適応した作物の増収を目指して 作物学では,イネ,ムギ,ダイズ,ササゲなどの作物を対象として,発芽から登熟過程における環境(温度,水,塩,風,光)ストレス適応および子実肥大・物質蓄積メカニズムを調べることにより,作物増収やストレス耐性作物の作出と栽培技術の画期的な改良を目的としています。自然環境に調和した新しい農業生産技術を創出する 農学分野における教育と研究は,農業に関わる生物の生活を生理,生態,遺伝といった様々な視点から科学的に解明するとともに,得られた原理を応用することにより,自然環境に調和した持続的農業生産システムを創出し,人類社会に貢献することを目標としています。分野長による分野紹介農学分野

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