九州大学 農学部 ガイドブック 2024
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15 農林水産業は,様々な生物資源の有効利用を目指す産業です。生物の多様性を保ちながら,生物資源を効率的に,また持続的に利用していくためには,生物と環境の関係をよく理解し,環境をある程度人為的に制御する技術が必要です。 具体的には,①環境に調和した灌漑施設の建設と維持・管理や,土壌中での水の運動の理解とそれに基づく無駄のない給水,②海域・河川・湖沼といった水域水環境の保全・改善や,近年の集中豪雨により頻発化する洪水への対策,③圃場や栽培施設の熱・光エネルギーの流れの正確な予測やそれらの制御,④圃場や農業用構造物の造成・維持や土壌内での養分や有害物質の移動の予測,そして⑤砂漠化や汚染などにより劣化した土壌の修復などが挙げられます。これらはすべて古くからある難しい課題ばかりですが,最新の数理科学や数値シミュレーション技術,センシング手法の開発,そして物質科学の応用により,新たな方向に発展・展開しつつあります。 生物生産環境工学分野では,灌漑利水学,水環境学,土環境学,土壌学,気象環境学の5つの研究分野が教育研究を担当しており,『自然環境との調和の中で安定かつ安全な農業生産基盤と農村生活基盤の整備・保全』と『環境・生態系の保全および持続可能かつ効率的な農業生産』を実現するための農業農村工学・農業環境工学的な専門教育を行っています。生物生産環境工学分野の特徴は,国内外で活躍できる技術士(国が認定した“高等の専門的応用能力”を備えた技術者)育成のための技術者教育を実践していることです.新しい環境エンジニアリングによって農林水産業を支え,地球と我々が住んでいる地域の環境の保全に貢献してみませんか。生物生産環境工学分野長  原田 昌佳限りある水を有効に使って作物を育てる(マイクロ灌漑システム)作物⽣産が美しい農村景観をつくる水田で憩うカモ生物資源生産科学コース作物と環境をはぐくむ水の利用 作物を育てるために水は不可欠です。特に,降雨の少ない乾燥地では,砂漠化防止のために限りある水資源を有効に使って作物を育てるための技術(マイクロ灌漑など)が求められています。この技術について研究を行っており,砂漠緑化を目指しています。また,作物生産のために水を使うことによって,農地が様々な生物の生息空間になったり,美しい農村景観が形成されたりします。作物を効率的に生産しつつ,周りの環境にもプラスの効果を発揮することができるような水利用方法について研究しています。「農」と「環境」が直面する課題を解決し未来を切り開く 生物生産環境工学分野では,農業生産の視点から,水資源・気象資源などの地域資源の保全と有効利用,土・水・気象環境の持つ多面的機能,自然と人間社会との共生関係,地域生態系の保全についての教育研究を行っています。ここで修得したことは,日本や世界の食料生産の向上,地域や地球レベルでの生産環境の保全,自然と調和した農村環境づくりに貢献します。分野長による分野紹介生物生産環境工学分野

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