九州大学 農学部 ガイドブック 2024
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29人類は自然界の物質を使って生産活動を行い、消費してまた自然界に戻しています。従来は生物資源を主に使い生産活動することで持続的循環が成り立っていました。しかし近代の経済社会では桁違いの時間を要してできた化石資源を大量に使い、生態系の中で分解できず廃棄物があふれて環境負荷を与えています。生物材料機能学分野は,人類社会の発展と自然環境との調和を目指して,木質を中心とする生物素材の未知機能を探究しています。樹木は地球圏の炭素・水循環を中継する生物で,時に数百年から数千年もの寿命を持つ,再生可能なバイオマス資源です。当分野では,この樹木生命体のナノからマクロに至る階層構造に着目し,物理工学的・化学的手法やナノ・バイオテクノロジーを駆使する先端マテリアルの機能開拓を行っています。具体的には,樹木の長寿命を木質材料の長期利用に活かしたり,天然多糖類のナノ構造制御やハイブリッド化による電子・メディカル材料の創出,さらには水だけを使う革新的なナノ加工技術の開発や,樹木の分解者であるキノコの物質変換能を創薬やファインケミカル合成に活かす研究など,幅広く「自然に学ぶマテリアルサイエンス」を展開しています。農学を志向する皆さんは,自然が大好きだと思います。その気持ちを生物材料機能学と結び付けることで,農学が先導するグリーンマテリアルイノベーションが実現し,真に豊かな人類社会の構築が可能になると信じて,我々は教育・研究と人材育成を行っています。生物材料機能学分野長 藤本 登留大断面集成材を使った木造ドーム外観とその内部 木造住宅や木質構造物は,二酸化炭素を貯蔵し,環境への負荷が少ない木質系材料から構成されることから,第2の森林と呼ばれます。したがって,これを増やし,長く使うことは森林造成と等価と言えます。腐り難く,割れ難い木材を使う 木材は屋外で使用するとき,防腐・防虫処理して,耐久性を高め,美しい状態でその使用できる期間を長くすることは森林資源保護の立場からも重要です。写真は木材に薬剤を注入処理して腐り難く,割れ難くした木柵や屋外遊具です。地球森林科学コース人と地球環境に優しい森林資源の高度利用をめざす 生物材料機能学分野では,バイオマス(生物資源)の9割が木質資源であることから,主としてその物理的,化学的,生物工学的変換によって地球環境の保全とバイオマスの高度利用の途を拓こうとしています。最近では,ナノテクノロジー,分子生物学を中心とする先端テクノロジーを駆使して,新規機能性生物材料の開発にも取り組んでいます。分野長による分野紹介生物材料機能学分野

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