九州大学 農学部 ガイドブック 2024
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攻撃しているウイルスリンパ球感染細胞研究に用いる水槽内のマサバ. マサバの受精卵とマイクロインジェクション(右上2枚). カタクチイワシの受精卵と孵化直後の仔魚(右下2枚). 33 海洋・河川・湖沼からなる水圏は,地球の表面積の7割を占め,穏やかな地球環境の形成と安定化に重要な役割を持っています。水圏には微生物,藻類,無脊椎動物から哺乳類に至る極めて多くの生物が生息し,それぞれ固有で多様な生命活動を営んでいます。そうした生物たちは,食資源としてのみならず,医薬品や生活資材の資源としても,我々の生活に深く関わっています。しかし,今,地球環境は大きく変動しており,これまで安定であった海洋環境も急激な変化にさらされています。そうした環境変動は,水圏動植物の分布や生物生産に大きな影響を与えており,四方を海に囲まれて様々な海の生態系サービスを受けてきた我が国にとって重大な脅威となっています。 水産科学分野では,生態系を健全に保ち,水圏の生物資源に秘められた利用可能性を人類の未来に役立てるために,水圏生物の生命現象の解明や未知の有用生物資源の研究を進めると共に,最先端の講義と豊富な実験・実習プログラムを通して,水圏生物の生命科学,環境科学,生命工学のエキスパートを育てています。地球に残された最大のフロンティアである水圏環境の保全と,そこに生息する多様な生命体の理解と高度利用に関する研究に果敢に挑戦する学生を求めています。異種赤血球を補体が破壊すると,ヘモグロビンが放出されて赤血球細胞が消え,透明になってしまいます。補体-+コイ血液中の白血球(M=マクロファージ,L=リンパ球)水産科学分野長 太田 耕平動物生産科学コース未来の動物性タンパク質⽣産システムとしての水産 世界的な人口増加と経済成長による食の変容により、水圏を利用した動物性タンパク質の生産はますます重要になってきています。世界で急成長を続ける水産養殖の持続的な発展、および、限りある漁業資源の持続的な利用のためには、その基盤となる海洋生物の再生産のメカニズムを詳しく理解することが不可欠です。私たちは、マサバ、カタクチイワシ、トラフグ、性転換魚(ベラ科魚)などの実験モデルを駆使して、性や生殖を中心とした生命現象の分子・細胞・生理機構に関する基礎研究を行うとともに、ゲノム編集技術や幹細胞操作をはじめとする、未来の水産を志向した生命科学技術に関する研究開発を行っています。 魚類の補体とリンパ球による細菌の破壊やウイルスの排除 補体は血液中を循環し,抗体と協⼒して働く殺菌タンパク質群で,特に魚類の補体活性は哺乳類よりも遥かに高く,また幅広い温度で機能します。魚類の血液中には,ウイルス感染細胞を除去するための細胞傷害性リンパ球などの白血球が巡回しています。薬による治療が困難な魚のウイルス病を予防するために,このようなリンパ球機能を利用するワクチンの開発が有望です。地球はアクアプラネット分野長による分野紹介水産科学分野

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