九州大学 農学部 ガイドブック 2024
39/48

123私たちは,生態・行動・生理・分子生物学など様々な角度から天敵生物を研究しています!38昆虫もヒトと同様,病気になります…昆虫病原微⽣物の探索と害虫防除への応用 ⾃然環境には昆虫がたくさんいるように,昆虫の病原微生物もたくさんいます。注意深く観察すると,病死虫を見つけることができます(写真1:疫病菌に感染したアブラムシ,写真2:白きょう病菌に感染したカミキリムシ)。また,生きた昆虫を餌にして,土の中に生息している病原微生物を釣り出すこともできます(写真3:ヤマトシロアリを用いた昆虫病原糸状菌の釣り出し)。 アブラムシ,カミキリムシ,シロアリはそれぞれ作物,樹木,木製品の害虫です。このようにして発見された微生物は,これらの害虫の防除に利用できる可能性があります。19世紀半ば,世界一の養蚕国フランスで発⽣したカイコの奇病…その原因は微胞子虫でした 微胞子虫はさまざまな動物の細胞内に寄生する単細胞性真核微生物の一員です。昆虫が食物と共に摂取した微胞子虫胞子は消化管内で発芽して細胞内に侵入し,感染を広げていきます。感染末期には昆虫体内は多量の胞子で満たされます。海外では,バッタ類や畑作・果樹害虫の防除に昆虫病原性微胞子虫が利用されています。サツマイモの大害虫イモゾウムシから発見された原虫(原⽣動物) イモゾウムシ(写真左の矢印,体長約5mm)は西インド諸島を原産とするサツマイモの重要害虫で※白線の長さは1/100㎜す。⽇本では1947年に初めてその侵入が確認され,現在では奄美大島以南の南西諸島や小笠原諸島に発生が認められています。2004年,イモゾウムシからオーシストとよばれる原虫の耐久性細胞が発見されました(写真右)。この原虫の感染によって宿主の短命化や産卵数の減少が引き起こされることがわかっており、イモゾウムシ防除への利用が期待されます。 害虫の天敵である捕食性カメムシをナス栽培中のハウスに放すと農薬を使わなくても害虫の発生が見事に抑えられました。(放飼区)。天敵を使わないと害虫は大発生します。(対照区)益虫を味方に害虫をコントロールする!目的の害虫だけを病気にする微⽣物たち天敵微⽣物学部門      健全     感染死亡※ 白線の長さは1/100㎜天敵を放して害虫防除害虫と天敵の間でおきる攻防のダイナミクス マメゾウムシはアズキなど乾燥種子の害虫で,幼虫はマメ内部を食害します。コマユバチは,豆の外から幼虫に卵を産みつけ,蜂幼虫はマメゾウムシ幼虫を食べてしまいます。どちらの昆虫も,優れた実験生物で,生態学や応用昆虫学の進展に貢献しています。他の昆虫に寄⽣し殺してしまう寄⽣蜂 寄生蜂は産卵管を使って他の昆虫に卵を産みつけ,孵化した幼虫がその昆虫を食べ尽くし殺してしまいます。右の写真は固い殻を持つガの蛹に産卵管を突き刺している寄生蜂です。これらの寄生蜂は害虫の発生を抑える重要な働きをしています。活躍する益虫たち天敵増殖学部門農学研究院附属教育研究施設益虫と有用微生物を使って,生物間相互作用を利用した害虫防除!!人畜に無害で安全な環境保全型防除法 天敵(益虫と有用微生物)を利用して害虫を防除する,いわゆる生物的防除を専門に教育研究を行っている,アジアで唯一の機関として知られています。生物的防除は自然の法則を利用して害虫を防除するので,生物種および環境保全に最適な方法の一つとして,近年特に注目されています。生物的防除研究施設

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る