九州大学 農学部 ガイドブック 2024
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39 細菌に感染するウイルス(バクテリオファージ)は,進化的に古い遺伝子を持つことが知られており,これを調べることで生命の起源と進化の有り様が理解できます。一方,これらはヒトに感染性が無いので,多剤耐性菌や植物病原菌,腸内の悪玉菌のみを破壊して,ヒトの健康や食の安全に貢献できます。写真は小浜温泉熱水(75℃)で単離した好熱性繊維状ファージが好熱菌に感染する様子で,我々が世界で初めてゲノム情報の解読に成功しました。多様なカイコ突然変異リソース 本分野は、ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)カイコの中核機関に指定され、多種多様なカイコ系統を保存すると同時に世界各国へ提供しています(写真は幼虫・繭の突然変異体や遺伝子組換えカイコの例)。カイコの系統維持には大量(約7トン)の桑が不可欠で、伊都キャンパスに約3ha、鹿児島県指宿試験地に約2.5 haの桑畑を管理しています。圃場管理、個体レベルの形質調査、分子遺伝学実験、パソコンを駆使したデータ解析まで、幅広い研究活動を展開しています。⽣命進化の探索とバイオテクノロジーの鍵を握る微⽣物ウイルスイネ遺伝子資源の圃場での栽培 多数のイネ系統・品種の維持・保存のため,圃場で栽培したイネの特性評価は重要です。写真は各系統を区別して栽培しているところです。隣り合った列のイネは全て異なる系統・品種です。農学研究院附属教育研究施設家蚕遺伝子資源の多様性の解明と利用を目指す カイコ(家蚕)は野生に生息するクワコから家畜化された昆虫です。⽇本では養蚕が盛んであったため、カイコに関する研究が活発に行われてきました。本分野では、世界各地から収集した系統や、その系統から派生した突然変異体を保存しており、その規模は世界最大です。それらのリソースと、ゲノム情報、トランスクリプトーム情報、ゲノム編集技術を活用しながら、カイコの家畜化の遺伝的基盤や、カイコ変異体の原因遺伝子の機能解析を進めています。また、カイコ系統を安定的に保存するために生殖質の凍結保存技術を開発・実用化し、増大する一方の遺伝子組換え系統やゲノム編集系統の凍結保存を行っています。イネ遺伝子資源の多様性の解明と利用を目指す 温帯地域の各地から収集した5000点のイネ品種および独⾃に誘発した約9000系統の変異系統を保存するとともに,特性の評価を続けています。これらの品種・系統を用いて,イネの進化や系統分化,遺伝学,生理・生化学,分子生物学などの研究を行っています。微⽣物遺伝子資源の多様性の解明と利用を目指す 微生物はありとあらゆる場所に生息し,我々人類に様々な恩恵を与えてくれる遺伝子資源の無限の宝庫です。微生物遺伝子開発分野では,温泉などに生息する好熱菌などの極限環境微生物,放線菌,乳酸菌などの発酵微生物とそれらのウイルスを世界各地で探索・分離し,これらの遺伝子資源を利用した研究を行っています。特に,遺伝情報の解析や組換えDNA技術を用いた有用産物の生産によって,生命科学の発展やバイオテクノロジー技術の発展に寄与しています。遺伝子資源開発研究センター◉有用遺伝子資源の探索・保存と利用・開発を行う 遺伝子資源は学術研究上はもちろん,農業・産業並びに地球環境の保全のために重要な国家的・世界的財産です。これを安定的に維持保存することや,優れた性質をもつ遺伝子資源を新しく開発し,遺伝子操作などを用いて改良してさらに有効に活用するための研究を進めています。 本センターは,九州大学農学部が世界的に特色ある研究を推進してきたカイコ,イネを中心とする植物,産業上重要な発酵微生物について研究を行っており,家蚕遺伝子開発分野,植物遺伝子開発分野,微生物遺伝子開発分野の3分野から構成されています。なお,本センターは大学院システム生物工学講座の植物遺伝子資源学分野,家蚕遺伝子資源学分野,および微生物遺伝子資源学分野として教育研究に参画しており,また本センターで研修することができます。

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