九州大学 文学部 2023
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イスタンブルのアヤソフィアの姿からは、ビザンツ帝国の大聖堂とオスマン帝国のモスクのふたつの歴史を見ることができる。15歴史学コースHistory Course 私たちは、なぜここでこうやって生きているのだろう。人文科学が常に求める問いに、歴史学は「時間」の軸から迫っていこうとします。日本人が「日本人」と呼ばれるようになったのはいつからなのだろう。そもそも「日本人」「中国人」「アラブ人」とは、誰のことなのだろうか。私たちがふだん当たり前のように思い込んでいることひとつをとっても、実は答えは自明ではなく、極めて複雑な歴史を持っています。歴史学は、そういった「当たり前の思い込み」をひとつひとつ丹念にとらえ、「当たり前」が生まれてきた経緯や状況を明らかにし、その理由に答えようとしています。 例えば中国、エジプト、イギリスといった世界各地の人々が、千年まえに、どのような社会に生きていて、何を考えて町を歩き、何をたべておいしいと思っていたか。そんなことを明らかにするのは並大抵のことではありません。しかも、そういった人々の日々の営みが、いま現在の私たちの世界を生み出したのです。現在の私たち、現在の世界の隣人たちの事を知るには、過去の私たち、過去の彼らを知る必要があります。 大学の歴史学の講座では、それぞれの学生が自分なりにそのような「なぜ」「どのように」を見つけて、先人の研究成果と取り組み、また過去の史料と直接むきあって、その答えを探し求めています。そのために、古い草書体の古文や、漢籍、また韓国語、アラビア語、ドイツ語、ラテン語など様々な言葉を駆使して、外交文書や日記、年代記、地理書、宗教文書や法令集、果ては文学作品などの原典史料と格闘するのです。 史料をひもとき、先人の研究の蓄積を読み進め、自分の解き明かすべき問題を見つけ、そして答えを手に入れる。そのなかで、遠い時代のある社会に生きていた人々が、何を考え、感じていたか。そして、それはどういった時代の流れを生んでいったのか。そういった■が少しずつ明らかになっていくのを感じることでしょう。歴史学とはどんなものか清水 和裕 (イスラム文明学)

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