九州大学 文学部 2023
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図2:月の表面に見えるうさぎ図3:同じ要素で構成される二つのパターン23印象をぬぐい去ることはなかなかできません。どうも私たちは無意味なパターンにも、何かしらの意味を見出す性質を持っているようです。 同様の性質は、星空を見たときにも感じ取ることができます。例えば月の表面に見える影の模様は、実際には無意味なパターンですが、日本では餅つきをするうさぎの姿として見立てられています(図2)。また無秩序に配列されている星をつなげて、さまざまな星座を思い描くこともあります。興味深いのは、このような形で秩序づけられたパターンは、元の無秩序なパターンよりも把握しやすく、記憶にも残りやすいということです。私たちの脳は、ばらばらな要素をまとめて全体として捉えることで、ものごとを効率良く処理しようとしているのかもしれません。 また人は特定の配置パターンを、「顔」として素早く処理してしまう性質があるようです。図3は、どちらも同じ要素(四角と丸)で構成された単純なパターンですが、左側の絵のみが自然に顔として認識され、強く注意が惹かれます。しかもこの性質は、生後1年未満という幼い時期から生じることも研究で示されています。顔を素早く検出することは、他者に反応したり表情を読み取ったりする上で非常に重要です。そのため、目や口といった特定のパーツの配置情報から、顔を自動的に認識するような仕組みが生まれながらに備わっているのかもしれません。その副作用として、私たちは意味の無い類似パターンにも顔を見出してしまうのではないでしょうか。 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という有名な句があります。幽霊だと思って怖がっていたものが、よく見ると枯れたススキであったという話です。この言葉にも、人が恐怖心や思い込みから何でもないものに意味を見出してしまうという性質がよく表されています。人の認識は一様ではありません。そこには、過去の経験や周囲の状況などのさまざまな要素が複雑に絡み合い、影響を及ぼしています。どのような情報が人の認識を定めるのかについて、皆さんもぜひ一緒に検証しましょう。

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