17OBT研究センターKYUSHU UNIVERSITY, SCHOOL OF DENTISTRY 2023 Oral health・Brain health・Total health(OBT)研究センターは、平成28年度に口の健康が脳の活性化を導き、全身の健康へ寄与することを包括的にサイエンスする研究センターとして設置されました。OBT研究センターは歯学研究院でキラリと光る若手・中堅層を分野ヒエラルキーから抜き出し、Principal Investigator(PI)として独立させ、各自の研究をより発展させることを目指しています。令和元年に新たに准教授1名を迎え、OBT研究センターを統括する教授1名のほか、准教授5名、講師1名、助教2名の計9名が所属しています。KYUSHUUNIVERSITYSCHOOL OFDENTISTRY2023主な研究内容1. iPS細胞を用いた歯周組織再生 歯根膜は、歯の植立維持および咬合圧感覚受容において主要な役割を有し、咀嚼機能の維持に必須の組織です。歯根膜が不可逆性のダメージを受けた場合、これを再生する効果的な方法はいまだ確立されていません。最近、ヒト歯根膜細胞の細胞外基質を用いてヒト皮膚由来のiPS細胞から歯根膜幹細胞様細胞を樹立することに成功しました。そこで、幹細胞を用いた新規歯根膜再生療法を確立することで歯の寿命ひいては健康寿命の増進を目指します。2. 唾液腺異常の分子基盤 シェーグレン症候群やIgG4関連唾液腺炎などの唾液腺疾患は、唾液分泌が低下し、口腔粘膜疾患の増加を引き起こすだけでなく、摂食嚥下障害により誤嚥性肺炎を招くことがあります。しかし、その治療法としては唾液分泌促進薬などの対症療法しかなく、根治的な治療法は存在しません。そこで、それらの唾液腺疾患における唾液腺障害のメカニズムを解明することにより、新たな標的分子治療法の確立を目指します。3. 口腔マイクロバイオームと健康との関連の解明 口腔は膨大な数の細菌、真菌、ウイルス等が複雑に作用し合いながら共存する一つの微生物生態系です。このような環境で発症するう蝕や歯周炎をはじめとする口腔感染症の克服には、直接疾患に関わる病原微生物だけでなく、微生物群集の全体像(マイクロバイオーム)のシステムとしての理解が不可欠です。大規模な被験者集団から採取した口腔微生物群集検体を解析し、データサイエンスアプローチを駆使して口腔マイクロバイオームと健康との関連を明らかにし、「健康な口腔マイクロバイオーム」の育成と誘導を基盤とした新たな口腔保健管理アプローチの確立を目指しています。4. 甘味感受性調節に関わる分子・生理基盤の解明 5つの基本味(甘、塩、酸、苦、うま味)のうち、甘味は生体活動にとって必要不可欠なエネルギー源のシグナルであり、肥満や生活習慣病とも密接にリンクします。これまでに甘味感受性の促進および抑制機構について明らかにしてきました。甘味感受性調節に関わる分子・生理基盤の全容を解明することは肥満や生活習慣病の予防に繋がることが期待されています。5. アルツハイマー型認知症に性差が生じるメカニズムの解明 アルツハイマー型認知症は女性に多くみられ、その患者数は男性の約2倍であることが知られています。しかし、そのメカニズムはまだわかっていません。慢性炎症(肥満、歯周病など)、閉経や加齢による性ホルモンの変化など、生体恒常性が破綻したときに、脳内の免疫応答の性差がアルツハイマー型認知症発症・進展の性差となって現れるのではないかと考えて研究を行っています。性差が生じるメカニズムを明らかにすることで、より個別性の高い予防戦略の提案と、新しい治療薬開発のきっかけとなることが期待されています。歯学の強みを生かした研究で国民のQOLの向上を目指すOBT研究センター紹介
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