19DDR研究センターKYUSHU UNIVERSITY, SCHOOL OF DENTISTRY 20232. 歯髄幹細胞を用いた全身疾患治療法の開発 歯髄に存在する組織幹細胞である歯髄幹細胞は、各種細胞に分化するのみならず、免疫反応の調整にも大きく関わっています。また細胞の死に関しても、それを抑制する効果も発見され、一つの細胞が様々な機能を有していることがわかってきました。マウスなどの動物モデルにおいては、脳梗塞や脊髄損傷などにおいて歯髄幹細胞を疾患部位へ注入することで、これら疾患の症状を改善します。また肝臓の機能障害や腸の蠕動運動障害を示す疾患においても、歯髄幹細胞を用いることで、これら疾患の治療に応用できる可能性が出てきました。このように歯髄幹細胞を様々な疾患へ治療に応用するために基盤研究を実施しています。また歯髄幹細胞の多分化能を利用し、様々な全身疾患の病態を歯髄幹細胞を用いて試験管内で再現することで、病態の発症原因や治療薬剤の探索に応用しています。3. 各種器官構築技術の開発 再生医療の最終ゴールは、必要な器官を丸ごと再生することです。歯科においては口腔内に存在する歯や唾液を産生する唾液腺を再生することができれば、歯を失っても歯を再生し、唾液分泌機能 近年の急速な医学研究の発展により、再生医療等の医療技術が開発され、臨床に応用されるようになってきました。歯科においても齲蝕や歯周病の病態解明や治療技術の開発、予防医学の推進が積極的に行われ、これら疾患がコントロール可能な状況になってきました。しかし超高齢化社会においては、高齢者の口腔機能低下や機能崩壊(オーラルフレイル)が問題となり、これらが誤嚥性肺炎、脳血管疾患、高血圧や糖尿病といった生活習慣病の発症に関わることが明らかになってきました。そこで失われた口腔機能を回復する目的で、生体内に存在する組織幹細胞と人工生体材料を組み合わせた再生医療技術の開発、さらに組織幹細胞を利用した疾患モデルの作出による治療法開発、産学官連携による人材育成を目的とし、歯学研究院では歯科発生再生研究(Dento-craniofacial Development and Regeneration research)センターを令和3年度に設置し、世界最先端の教育・研究・医療に基づくイノベーションの創出を目指します。KYUSHUUNIVERSITYSCHOOL OFDENTISTRY2023主な研究内容1. 歯髄由来組織幹細胞(歯髄幹細胞)の大量生産技術の開発 歯はエナメル質、象牙質、セメント質といった硬組織と歯髄と呼ばれる軟組織によって構成されています。歯髄の中の約0.1-0.5%程度の組織幹細胞と呼ばれる細胞が存在し、この細胞は神経を作る細胞、骨を作る細胞、脂肪を作る細胞など、様々な細胞に分化することができることから、再生医療に利用可能な細胞として着目されています。しかしながら含まれる細胞がそれほど多くないことから、効率良い細胞精製法の開発や人工的に組織幹幹細胞を誘導する技術の開発に取り組んでいます。大量生産が可能になることで、1つの歯から得られる組織幹細胞で、多くの患者の治療に応用することができます。口腔組織の発生を理解し再生医療を先導するDDR研究センター紹介
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