九州大学 大学院薬学府・薬学部 2023
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臨床薬学部門Molecular and System harmacology2. 痒みの研究 アトピー性皮膚炎に代表される慢性的な痒みもまた効果的な治療薬に乏しい疾患です。皮膚疾患や一部の内臓疾患などの痒みは強く慢性的で、過剰な引掻き行動が起こり、その結果皮膚炎が発症、さらに周囲の皮膚にも炎症が広がり、さらに強い痒みが出てしまいます(痒みと掻破の悪循環)。しかし、この慢性的な痒みの神経化学的メカニズムは全く分かっていません。最近私たちは、皮膚を激しく引掻くアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いて研究を行い、そのマウスの脊髄後角で「アストロサイト」というグリア細胞が長期にわたって活性化し、痒み信号を強め、痒みの慢性化に関与していることを世界で初めて明らかにしました。この研究成果は、アトピー性皮膚炎に伴う慢性的な痒みの新しいメカニズムとして注目されています。今後、脳や脊髄のニューロン、そして 薬理学分野では、生体の感覚制御(特に、痛みと痒み)の仕組みとその破綻による慢性感覚異常メカニズムを、遺伝子工学、細胞イメージング、電気生理学、光遺伝学、行動薬理学的実験技術を組み合わせた分子~細胞~個体レベルの包括的な研究から明らかにしていきます。そして、現在の治療コンセプトを変えるような新しい疾患メカニズムの発見とその成果に基づく新薬開発を目指した産学官連携共同研究の実現にチャレンジします。  1. 痛みの研究 痛覚は、有害な刺激から身を守るために必要な生体警告信号ですが、身体や精神的要因により、加えられた刺激にまったく見合わない痛みが出ることが多々あります。がんや糖尿病、帯状疱疹治癒後など神経障害を伴う多くの疾患では、通常よりも痛みが強くなったり(痛覚過敏)、触刺激でも痛みが生じるようになってしまいます(アロディニア)。私たちは、このメカニズムを明らかにし、新しい鎮痛薬の開発を目指しています。皮膚からの痛覚信号は、神経によって脊髄と脳へ伝えられます。しかし、その周囲には数多くのグリア細胞が存在し、この細胞がモルヒネも効かない慢性疼痛「神経障害性疼痛」の原因であることを明らかにしてきました。さらに最近、グリア細胞が状況に応じて変化し、痛みを緩和させる細胞に変化することも明らかにしました。私たちの研究では、脳と脊髄の神経とグリア細胞を解析し、慢性疼痛のメカニズムを解明します。  教 授 津田  誠[博士(薬学)]Professor Makoto Tsuda, Ph. D.准教授 高露 雄太[博士(薬学)]Associate Professor Yuta Kohro, Ph.D.助 教 藤川理沙子[博士(医学)]Assistant Professor Risako Fujikawa, Ph.D.助 教 河野 敬太[博士(医学)]Assistant Professor Khono, Ph. D.[Research] Work in my laboratory is primarily directed to elucidating glia-neuron interactions in the spinal cord and brain and to understanding the cellular and molecular mechanisms of pain and itch signaling (in particular pathological chronic pain and itch) with the goal of counteracting these mechanisms in order to devise strategies for new types of pain and itch relieving medications.  【代表論文】〈最近5年間〉Kanehisa et al., Nature Commun 13: 2367 (2022)Masuda et al., Nature 604: 740-748 (2022)Kohno et al., Science 376: 86-90 (2022)Shiratori-Hayashi et al., J Allergy Clin Immunol 147: 1341-1353 (2021)Tashima, Koga, Yoshikawa et al., PNAS 118: e2021220118 (2021)Kohro, Matsuda, Yoshihara et al., Nature Neurosci 23: 1376-1387 (2020)Koga K et al.: J Allergy Clin Immunol 145: 183-191 (2020)Shiratori-Hayashi et al., J Allergy Clin Immunol 143: 1252-1254 (2019)Inoue and Tsuda, Nature Rev Neurosci 19: 138-152 (2018)〈~2017年〉Masuda et al. Nature Commun (2016), Shiratori-Hayashi et al., Nature Med(2015), Masuda et al., Nature Commun (2014), Masuda, Tsuda et al., Cell Rep (2012), Biber, Tsuda, Tozaki-Saitoh et al., EMBO J (2011), Tsuda et al., Brain (2011), Tsuda et al., PNAS (2009), Coull et al., Nature (2005), Tsuda et al., Trend Neurosci (2005), Tsuda et al., Nature (2003)グリア細胞を組み合わせた研究により、従来の視点や研究アプローチからは見出せない、慢性掻痒の全く新しいメカニズムを明らかにし、その成果をベースに新しい視点を持った痒み治療薬の開発を目指します。 そして、以上の研究を通じて、痛みと痒み、グリア細胞の生物学的役割や存在意義についても探究し、その本質に迫りたいと思います。分野連絡先分野連絡先津田  誠(Makoto Tsuda)津田  誠(Makoto Tsuda)〒812-8582 福岡巿東区馬出3-1-1TEL :092-642-6628E-mail:tsuda@phar.kyushu-u.ac.jpURL:http://life-innov.phar.kyushu-u.ac.jp/index.html教 授 津田 誠Prof. Tsuda准教授高露 雄太Associate Prof. Kohro助 教 藤川理沙子Assistant Prof. Fujikawa助 教 河野 敬太Assistant Prof. Khono14薬理学分野

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