九州大学 大学院薬学府・薬学部 2023
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創薬科学部門Green Pharmaceutical Chemistry1. 触媒による化学選択性の制御 医薬品などの複雑系分子は、酸素、窒素、硫黄などの元素からなる様々な官能基(FG)によって高度に修飾された構造を有しているため、その合成や機能化には官能基の反応性(化学選択性)の制御が極めて重要です。これまで、官能基本来の反応性の差を利用することで、化学選択的な反応が達成されてきました(下図 P1< P2の選択性を P1<< P2 に改善)。一方、複数の官能基の本質的な反応性を逆転すること(P1>> P2 に逆転)は極めて困難でした。我々は、本質的な選択性を触媒的に逆転させる革新反応の開発に取り組み、アミノ基存在化による水酸基選択的な触媒的アシル化反応や、カルボン酸(およびその等価体)の選択的エノール化(反応基質の酸性度1016倍の差の逆転!)などの開発に成功しています。現在は、このような画期的な反応の開発を「偶然から必然」にするため、情報科学を用いたシステム構築を行なっています。2. 官能基評価キットを用いた官能基許容性の網羅的な情報収集 機能性分子の合成には保護基が汎用されるが、より利用的な環境調和性の高いプロセスにするためには保護基フリーの次世代型の合成プロセスの開拓が必須で、そのためには官能基共存性に関する網羅的な情報収集が必須です。そこで、様々な官能基を有する官能基評価キットを活用し、様々な官能基の共存下で反応を行い、主反応への影響、添加した化合物の反応の有無などの情報を網羅的に収集しデータベース化しています。本手法では、ネガティブな結果も含めたすべての情報を網羅的に収集することができるため、データ駆動型機械学習の精度向上や逆合成解析プログラムの作成に大きく貢献できると期待しています。さらに、「官能基評価キット」を用いた検討を行うことで、正の添加効果の発見や、予期せぬ現象も見出されており、新反応発見を「偶然から必然に」するシステムを構築できると考えています。 私たちの研究分野では、人類にとって必要な医薬品などの機能性分子を、地球環境に負荷をかけることなく実用レベルで供給する「環境調和型触媒反応」を開発し、実際に様々な生物活性化合物などの合成を行い、化学・薬学の分野に貢献することを目的に研究を行っています。これらの目的を達成するためには、様々な分野の知識と経験が必要ですが、特に「有機化合物の合成力」と「金属錯体の合成力」を両輪に研究・教育を行っています。また、これらの研究を加速するため、「デジタル有機合成(実験科学と情報科学の異分野融合)」を活用した研究を展開しています。 以下に代表的な研究項目を示します。  教 授 大嶋 孝志[博士(薬学)]Professor Takashi Ohshima, Ph. D.助 教 矢崎  亮[博士(薬学)]Assistant Professor Ryo Yazaki, Ph. D.助 教 杉嵜 晃将[博士(理学)]Assistant Professor Akimasa Sugizaki, Ph. D. 上記のようなテーマについて、学部生、学府生と教員合わせて32名(内留学生2名)で研究を進めています。研究とは「無」から「有」を生み出すものであり、これまでの常識のとらわれない自由な発想で研究に取り組んでもらいたいと思っています。分野連絡先分野連絡先2. “Organocatalytic Direct Enantioselective Hydrophosphonylation of N-Unsubstituted Ketimines for the Synthesis of α-Aminophosphonates” K. Yamada, Y. Kondo, A. Kitamura, T. Kadota, H. Morimoto, T. Ohshima, ACS Catal., 13, 3158 (2023).3. “O- and N-Selective Electrophilic Activation of Allylic Alcohols and Amines in Pd-Catalyzed Direct Alkylation” L. Lin, S. Kataoka, K. Hirayama, R. Shibuya, K. Watanabe, H. Morimoto, T. Ohshima, Chem. Pharm. Bull., 71, 101 (2023).4. “Ternary catalytic α-deuteration of carboxylic acids” T. Tanaka, Y. Koga, Y. Honda, A. Tsuruta, N. Matsunaga, S. Koyanagi, S. Ohdo, R. Yazaki, T. Ohshima, Nat. Synth., 1, 824 (2022).5. “One-Pot Catalytic Synthesis of α-Tetrasubstituted Amino Acid Derivatives via In Situ Generation of N-Unsubstituted Ketimines” Y. Kondo, Y. Hirazawa, T. Kadota, K. Yamada, K. Morisaki, H. Morimoto, T. Ohshima, Org. Lett., 24, 6594 (2022).6. “α-Amino acid and peptide synthesis using catalytic cross-dehydrogenative coupling” T. Tsuji, K. Hashiguchi, M. Yoshida, T. Ikeda, Y. Koga, Y. Honda, T. Tanaka, S. Re, K. Mizuguchi, D. Takahashi, R. Yazaki, T. Ohshima, Nat. Synth., 1, 304–312 (2022).7. “Catalytic Dehydrogenative β-Alkylation of Amino Acid Schiff Bases with Hydrocarbon” T. Ikeda, H. Ochiishi, M. Yoshida, R. Yazaki, T. Ohshima, Org. Lett., 24, 369–373 (2022).1. Development of Environmentally Benign Processes Based on the Catalytic Activation of Unreactive Functional Groups2. Development of New Chemoselective Catalyses3. Synthesis of Biologically Active Natural Products Using One-Pot Multistep Catalysis4. Promotion of Drug Discovery Research with the “GreenPharma” Concept5. Promotion of Digitalization-driven Transformative Organic Synthesis (Digi-TOS)3. グリーンファルマ創薬研究 アカデミック発の創薬シーズ開発を目的として、抗がん剤や鎮痛薬等の創薬研究を共同研究として行っています。今後、グリーンケミストリーと創薬化学の融合を目指したグリーンファルマ研究、さらに、「デジタル有機合成」プラットフォームを活用し、深層学習を利用した新規リード化合物の創製研究なども行なう「デジタル創薬」をさらに推し進めていきたいと思っています。[Research]The following topics are currently under investigation in our laboratories:【代表論文】1. “Functional Group Evaluation Kit for Digitalization of Information on the Functional Group Compatibility and Chemoselectivity of Organic Reactions” N. Saito, A. Nawachi, Y. Kondo, J. Choi, H. Morimoto, T. Ohshima, Bull. Chem. Soc. Japan, accepted (doi:10.1246/bcsj.20230047).大嶋 孝志(Takashi Ohshima)大嶋 孝志(Takashi Ohshima)TEL :092-642-6650E-mail:ohshima@phar.kyushu-u.ac.jpURL :https://green.phar.kyushu-u.ac.jp/教 授 大嶋 孝志Prof. Ohshima助 教 矢崎  亮Assistant Prof. Yazaki助 教 杉嵜 晃将Assistant Prof. Sugizaki32環境調和創薬化学分野

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