創薬科学部門(18F-標識)ROONZnPdPdMolecular Transformation Chemistry1. 複雑な分子を迅速に機能化する 創薬や生命科学研究において、生物活性分子が生体内で働く仕組みの理解は重要な課題です。このために、元の分子に機能を付与した分子プローブの利活用がありますが、これらは一般に複雑な化学構造を持つため、その化学合成には多大な労力がかかります。これに対し私たちは、元の分子を原料に、わずか二段階で迅速に機能性部位を付与する手法を開発しました。一例として、医薬品によく見られるフッ素を、その放射性同位体であるフッ素-18に迅速変換した例を下図に示します。このように得たフッ素-18誘導体は、陽電子放射断層撮像(PET)という手法を用いることで可視化でき、薬物動態の解析などが可能です。このように独自の合成法を用いて、生物学的に興味深い分子の機能化に取り組んでいます。2. 複雑な分子を精密に改変する 化学変換は講義でも無数に学びますが、これらを複雑な化学構造を持つ分子に適用すると、副反応が起こり、思い通りにならないことがよくあります。望む位置だけを選択的に変換するには、化学変換の鍵となる中間体の反応性を操ることがポイントです。その一例として、鈴木・宮浦クロスカップリング反応の研究例を紹介します。これは2010年のノーベル化学賞の対象となった有用な化学変換法ですが、この実施には塩基の添加が必須です。私たちはこれに対し、塩基とは真逆の性質を持つルイス酸を用いても進行することを見いだしました。反応機構を精査した結果、安定で観測可能な二核錯体を前駆体として、高反応性のパラジウム中間体が徐々に生じることを突き止めました。実際、この反応は複雑な分子の合成にも適用でき、新たな機能性分子の合成にも十分応用できます。このように、開発した有機反応を深く掘り下げることで、新しい有用な合成手法の開発へつなげていきます。33 私達の研究分野は、薬学や医学、生命科学研究を推進する新たな機能性分子の創出を目指し、これに必要な新しい有機反応の開発研究に取り組んでいます。医薬品をはじめとする生物活性を持つ分子は、総じて複雑な化学構造を持ちます。これらの合成および機能化には、望みの位置をピンポイントで変換できる精密な手法が不可欠です。これに対し、有機金属化学、光化学、創薬化学や計算化学などの様々な化学的手法を駆使することで、新しい有機合成法を創出し、薬学および学際分野における難題の解決に挑みます。以下に、その一部を紹介します。スタチン誘導体教 授 丹羽 節[博士(工学)]Professor Takashi Niwa, Ph. D.分野連絡先分野連絡先2. Takashi Niwa, Tsuyoshi Tahara, Charles E. Chase, Francis G. Fang, Takayoshi Nakaoka, Satsuki Irie, Emi Hayashinaka, Yasuhiro Wada, Hidefumi Mukai, Kenkichi Masutomi, Yasuyoshi Watanabe, Yilong Cui, Takamitsu Hosoya, Synthesis of 11C-Radiolabeled Eribulin as a Companion Diagnostics PET Tracer for Brain Glioblastoma. Bull. Chem. Soc. Jpn.96, 283-290 (2023).3. Takashi Niwa, Yuta Uetake, Motoyuki Isoda, Tadashi Takimoto, Miki Nakaoka, Daisuke Hashizume, Hidehiro Sakurai, Takamitsu Hosoya, Lewis acid-mediated Suzuki-Miyaura Cross-Coupling Reaction. Nat. Catal.4, 1080-1088 (2021).4. Motoyuki Isoda, Yuta Uetake, Tadashi Takimoto, Junpei Tsuda, Takamitsu Hosoya, Takashi Niwa, Convergent Synthesis of Fluoroalkenes Using a Dual-Reactive Unit. J. Org. Chem.86, 1622-1632 (2021).5. Takashi Niwa, Takamitsu Hosoya, Molecular Renovation Strategy for Expeditious Synthesis of Molecular Probes. Bull. Chem. Soc. Jpn. 93, 230-248 (2020).3. 共同研究を通じた基礎・応用研究の展開 薬学はそれ自体が学際分野であり、様々な背景を持つ研究者が協力しないと課題解決は困難です。これまで私たちは、薬学に限らず多彩な分野の研究者との共同研究を通じ、真に求められる機能性分子の開発を進めてきました。一方、上記の有機反応に関わる研究の中で直面する困難も、適切な共同研究が解決してくれることがあります。私たちは独自の有機反応化学を深めるとともに、積極的に共同研究を行うことで、化学や薬学に留まらない視野を養い、新たな科学を切り拓いていきます。[Research]Our group aims to create chemistry that promotes interdisciplinary field researches, such as pharmaceutical, medical, and life sciences, by exploring molecular transformation chemistry. Specifically, we will develop organic reactions triggered by various external stimuli to realize novel transformations and precise modification and accelerate the creation of functional molecules required in interdisciplinary fields. Based on the accumulated knowledge and experience in organometallic chemistry, photochemistry, medicinal chemistry, and computational chemistry, as well as collaboration with researchers across disciplines, we will attempt to solve the challenging problems we face.【代表論文】1. Zhouen Zhang, Takashi Niwa, Kenji Watanabe, Takamitsu Hosoya,11C-Cyanation of Aryl Fluorides via Nickel and Lithium Chloride-Mediated C-F Bond Activation. Angew. Chem. Int. Ed.62, e202302956 (2023).教 授 丹羽 節Prof. NiwaPETで⽣体内の局在を可視化独⾃ホウ素化機能化徐々に発⽣安定な前駆体亜鉛・パラジウム⼆核錯体丹羽 節(Takashi Niwa)丹羽 節(Takashi Niwa)Tel:092-642-6877E-mail:niwa@phar.kyushu-u.ac.jpURL:https://niwagroup.jp⾼反応性中間体パラジウム錯体カチオン性R =19FBpin18FOOt-Bu精密分子変換化学分野
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