先輩からのメッセージ斎藤 嘉朗中台(鹿毛)枝里子山﨑 有美子国立医薬品食品衛生研究所副所長(1987年卒、1989年修士修了)大阪公立大学大学院生活科学研究科教授(1999年卒、2001年修士修了)大塚製薬株式会社新薬開発本部バイオメトリックス部 臨床薬理室 課長補佐(2006年卒、2008年修士修了)39 現在、厚生労働省の国立医薬品食品衛生研究所で、医薬品の重篤な副作用に関する研究をしています。副作用の中には、湿疹など軽いものから間質性肺炎などの命にかかわるようなものまでありますが、その発症をなるべく早期に、さらには飲む前からわかるような指標となる遺伝子やタンパク質を探索する研究を行っています。これは厚生労働省で推進している、事後対応型から予測・予防型の副作用対策への政策転換の一環です。また、国立研究機関所属という性質上、医薬品の開発時に利用する試験法の国際調和を世界の行政関係者と行ったり、OECDで行っている化学物質の毒性評価書作成に専門家として参加したりしています。研究だけでなく、行政的な仕事もできるのが、現在の職場の特徴と言えます。 九州大学薬学部で学んでいた三十数年前には、漠然と医薬品関係の研究者になりたいと考えていましたが、医療現場に近い研究を行うには、薬の物理化学的性質に関する知識、病気に関する知識、薬の生体への作用に関する知識など、多くを総合して進めていく必要があります。その基盤となったのは、九州大学薬学部で、色々なことに興味を持ち、継続して学ぶこと、そして考えることの大切さを教えていただいたことだと思います。その時その時で最高の環境、機会と仲間を得ることができ、将来の方向性を見つけました。 皆さんも6年間又は4年間を大学で過ごす中で、薬に関する知識はもちろんのこと、先生や友達から刺激を受け、自分なりの方向性を見つけることがきっとできると思います。進学先選びで迷うことが多いかと思いますが、九州大学薬学部は皆さんの好奇心を満たし、成長する機会を与えてくれるでしょう。 私は子どもの頃から鳥や虫が大好きで、飽きもせず観察に明け暮れていました。将来は生物研究者になりたいと漠然と考えており、絶対に薬学部!ではなかったのですが、そんな不埒な私にとっても、九州大学薬学部はかけがえのない存在、まさに恩師そのものです。 薬学は薬のことを学ぶ学問ですが、なんというか、そこには一般的なイメージよりも遥かに深遠な世界が広がっていると思うのです。私自身は、講義で聴いたセントラルドグマ(遺伝情報はDNAからmRNAに転写され、タンパク質に翻訳される)に感銘を受け、その道の研究者になろうと決めました。皆さんは線虫C. elegansという生物を知っていますか?体長は成虫でも約1mm、体細胞数は959個しかありませんが、遺伝子数は約20,000個とヒトと比べても遜色がありません。でも一体薬学と何の関係が?実は線虫(研究者)は3回もノーベル賞を受賞しているのですが、2002年生理学・医学賞は、細胞の「アポトーシス」という仕組みを突き止めた研究に贈られました。アポトーシスは、遺伝子にあらかじめプログラムされた細胞を自発的に死なせる現象であり、「がん」などの疾患と密接に関わりますが、その仕組みは線虫でもヒトでも驚くほど良く似ていたのです。私は、大学で出会った分子遺伝学や線虫に助けられつつ、製薬会社ではがん領域の分子標的薬開発研究に携わり、今は大学教員として老化や生体防御に関する研究・教育を行っています。 COVID-19に対するワクチンや薬剤開発からもわかるように、薬学はその存在感を改めて示しており、これから健康長寿社会や持続可能社会を実現していくためにも不可欠なものです。皆さんが薬学という翼を得て、未来に羽ばたかれることを願っています。 高校生の頃、進路に迷っていた時に化学の先生がくれた1冊の本をきっかけに私は薬学部に進むことを決めました。製薬企業やアカデミアで研究者として創薬に長年携わってきた方が書かれたその本には、薬ができるまでの長く険しい道のりや創薬研究と真摯に向き合う研究者としての心構えなどが綴られていました。薬学部=薬剤師になるというイメージしかなかった当時の私にとっては、非常に興味深く、製薬企業で薬を創る人になりたいと思うようになりました。 九州大学の薬学部では創薬・育薬に必要な幅広い学問を学び、大学院ではサイエンティフィックに考える力を、そして自ら考え、実行することの重要性を学ぶことが出来ました。また、学びの場としてのみならず、一生の友人と恩師に出会うことができ、かけがえのない日々を送ることができました。 私は現在、大塚製薬(株)で新薬の研究開発に従事しています。自社研究所等から創出された化合物(薬の種)について、臨床試験を通してヒトの体内でどのような挙動を示すか、有効性はあるか、十分な安全性はあるかといったデータを収集し、新薬を世に出すお仕事です。大学院で専攻した薬物動態の知識を生かして、臨床薬理の側面から薬の特徴を把握しながら、最適な用法用量の検討や、効率的に医薬品の承認申請を行うための開発プランの提案も行っています。 医薬品の研究開発は従来の低分子のみならず、バイオ医薬品や核酸医薬、遺伝子治療など目まぐるしく発展しています。このような変化の中でも、サイエンティフィックかつロジカルに考える思考力は必ず役に立ちます。九州大学薬学部で幅広い知識と思考力を身につけながら、あなただけの将来の道を見つけてみませんか?
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