長岡技術科学大学 統合報告書 2022
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NII SHYAMAYUTA29 「分かる」と「分からない」を同時に感じつつなんとか歩を進めることで、外部(=知り得ぬ世界)に対する反応に備える(高岡親王航海記、p.137)。このような無目的な能動性を意識的に持続することは忍耐を要します。ではこれを補助するインタフェースをつくるにはどうするか。私たちは両義的な状態を生成するメカニズムに注目しています。 「わたしの身体である」と感じることを身体所有感といいます。自身の身体の所有感は当たり前に思えますが、視覚、触覚、固有感覚など複数の感覚が同期すれば手の模型やVRの仮想身体にも所有感を感じられます。しかしそれらは所有感が冗長なことを示すだけなのです。対して私たちは、身体所有感が「わたしの手であり」かつ「わたしの手でない」という両義的感覚であることを示してきました。視触覚の同期によりゴムの手に所有感を感じさせる実験では、主観報告を詳しくみると、対照条件でさえ所有感を感じる被験者がおり、統制質問でさえ条件間の差がみつかりました。私たちはこれら心理学的結果が脳・身体を横断する複数の生体信号間の統合度と関連があることを示し、両義的所有感を生理心理学的に明らかにしました(図1)。別の実験では、非所有感(自身の身体が自身のものでないように感じる)が引き起こされました(図2)。そのとき被験者は当該部位の痛みに対して敏感になること、皮膚温度が高くなることなど、生理学的証拠も得られています。以上の身体認識と同様、群れも両義性をもちます。動物の群れ(図3)から着想を得た「互いに動きを読み合う」というメカニズムは、個体の自由な振る舞いと群れのまとまりを実現します。この相互予期がヒトの群れ形成に寄与することを示した共同研究(リーダーは京工繊大の村上久)は2021年度イグ・ノーベル賞を受賞しました(図4)。 私たちの研究は、経験を担うはずの観測者が行為の目的や理由に追われて新たな経験ができないような不健康な状態を防ぐための技術に関する科学=技学なのです。図1図2図3図4情報・経営システム系西山 雄大 准教授無目的な能動性を持続するためのインタフェース構築

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