名古屋大学 オープンキャンパス2017 ガイドブック
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17の風景や建築物であったりするでしょうし、土地の人々が話す言葉とか、誰かが母親に宛てた手紙かもしれません。絵画や文学などの作品であるかもしれません。自分の一番の関心がどこにあるかが明確になったら、そのためのアプローチ法を示してくれるのはどの専門分野かを考えてください。どの分野も孤立して閉じたものではなく、分野をまたがって学ぶことは多くあります。一番の関心事から、さらにどの方向へ視野が広がっていくかに応じて、どの分野に軸足を置き、他のどの分野とクロスするかもさまざまです。<文化>という言葉はある意味漠然としているので、「文化に興味がある」というだけではやっぱり焦点が絞りきれません。問いの立て方を少し変えると、照準もはっきりしてアプローチ法も見えてきます。そうなれば、どのアプローチ法を選ぶかはあなた次第です。②大学での授業についてQ.希望する分野・専門に進むために、高校卒業までに何か特定のことを勉強しておかないとそこに進めないということはありますか?A.大学で学ぶ学問は、大学に入って初めて学ぶ領域も多く、また、高校までの勉強の仕方とは全く違う分野もあります。その点では、分野・専門に進んでから必要なことを学び始めるのでは遅すぎるということはありません。むしろ、分野・専門を決めてからは目標もはっきりして、そのために習熟が早いということもあります。あること4444を理解するためには何を知っていなくてはならないかを4444444444444444444444444知る44ことが大切です。この、いわば前々段階の「知る」ところから勉強は始まります。「知ること」を積み重ねてものの見方が変わることもあり、これまでにも理解していたことであっても、より深く理解するということがあります。これまで知らなかった領域を学ぶこと、これまでとは違うアプローチ法によって学ぶことの愉しみを味わってください。Q.文学部での勉強は、高校までの勉強とどう違いますか?A.大きく分けると、文献学的、実験的、フィールドワーク的なやり方があります。  文学部の専門分野の多くは言語と密接な関係があります。史料であれ作品であれ思想書であれ、原典を読むことが基本になるからです。日本文学や日本史学でも、古い時代の日本語を読解するためにはスキルが必要です。また中国文学、中国哲学に限らず、東洋史の中でも中国史では中国語が必須ですが、漢文と現代中国語とでは全く違います。高校までは主に翻訳を通して接していた文学作品も、そのオリジナルは英語であったり、フランス語やドイツ語、中国語、古典語であったりします。原典に直に触れると、作品の印象も大きく変わります。  多くの人にとって英語以外の外国語は大学に入って初めて学びますが、専攻に進んでから学ぶ言語もあります。インド文化学ではサンスクリット語やパーリ語、西洋古典学(古代ギリシア・ローマ文学)ではギリシア語(古典)やラテン語ですが、哲学や西洋史、東洋史(中国語、タイ語)では、どの時代のどの文化圏を選ぶかによって、必要な言語が違ってきます。どの分野であっても言語の習得の度合いが文献の読解力に直結し、読解のスキルを養うことが専門の勉強の一環となります。また言語そのものを対象とする分野もあります。日本語学、英語学、言語学です。言語学ではフィンランド語やスペイン語など各地の言語を扱います。  実験系としては、たとえば心理学では、実験から得たデータを解析するために、分野・専門に進んでからは統計学が必須です。実験系とはいっても、仮説を立てたり実験方法を検証したりするための基礎作業となるのは文献を読んで先行研究を知ることですし、実験結果をまとめるためには文章力も養わなくてはなりません。心理学に限らず、英語圏が主流の学問分野では英語文献の読解力が必要になります。  フィールドワークとしては、考古学や社会学、地理学などが日本各地をフィールドとして調査実習に行きます。歴史系の学問も史料を求めて調査に行きますし、文学系であっても、作家の草稿や手紙などの一次的な資料を求めて日本国内といわず、世界各地に赴きます。言語は文献読解のためだけでなく、現地の人とのコミュニケーションのためにも必要です。いずれの分野にしても、文献だけ、実験だけ、フィールド調査だけ、ということはありません。Q.文学部の美学美術史学では、創作を行う訳ではないようですが、何を学ぶのでしょうか?A.美学美術史学で扱うのは大きく分けて、西洋美術と日本美術です。一枚の絵画にはその時代、その文化の中で育まれた風景や、その中で生きる人々が抱いた感情、憧れや思想が表現されています。また洋の東西を問わず、作品の創作にはその時代の最先端の技術が駆使されています。様々な時代の様々な文化の中で人間が夢み、表現した「美」が、時代を超え文化を越えて訴えかけてくる感動について考えます。具象であれ抽象であれ、イメージとして表現されたものを、言葉によって語り直す学問でもあります。この感動を沢山の人に伝えるために、学芸員の資格を取り美術館や博物館に就職する卒業生も多くいます。ちなみに美学美術史学の他に日本史学や考古学等を専攻して学芸員の資格取得を目指す人もいます。Q.ふだんあまり本を読まないのに、文学部に進むのは矛盾しているでしょうか?A.<文学部>は、<文学>の学部ではなく、<文>の学部School of Humanitiesです。人類の歴史の中で、人間の精神生活、感情生活を表現するために、書物が優勢的な、時には唯一的な媒体であった時期が続きました。文化の発達によって次々と技術が開発されて、文化の成熟と共に生まれた<文学的なもの><オタク的なもの>を表現する媒体も多様化しました。さらに技術の飛躍的な進化も加わって、表現される人間の精神活動も細分化され精密化されて、その表現形態も多彩な変化を展開しました。しかしすべてが変わってしまうわけではありません。何千年も前の異郷の人が考えたことを現代の私たちが理解できるのは共通のもの、変わらぬものがあるからです。<古典>が時代を経て繰り返し新たに生き返ったのは、それを解読するスキルが継承されつつ発展していったからです。人文科学the Humanitiesは人間の精神活動の領域を広げていく諸学問であり、その総称が<文学部>なのです。人間の精神活動の展開と可能性に関心がありさえすれば、文学部で自分の <テーマ>を見つけることができると思います。③就職・進学についてQ.どの分野・専門に進むかということは、就職活動のときの有利・不利に関係ありますか?A.あまり関係ないといってよいと思います。どの分野・専門にしろ、必要な資料を集め、調べることを学びます。ゼミ発表では自分の考えをまとめ、それを分かりやすく人に説明し、議論するという経験を積みます。レポートや卒業論文の執筆は、問題の設定の仕方や論理的な文章を書く訓練となります。分野・専門によって重点の置き方の違いはありますが、個々人によっても学び方や学びの中心は違ってきます。大学で学ぶということは専門知識を身につけるだけではなく、人との関わりの中で幅広い表現力を養うことでもあり、このことが就職活動の中でも発揮されるばかりでなく、卒業後の人生にも大いなる糧となります。文

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