名古屋大学 文学部 大学院人文学研究科案内 2024
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先輩からのメッセージ42「名古屋大学」と聞けば、多くの方はノーベル賞の業績が目立つ理系学部を想像するかもしれません。実際、文系学部に比べ、理系学部の学生数は圧倒的であり、文学部も大きな存在感を放っているとは言いがたい状況です。では、なぜ文学部は存在しているのでしょうか。私は、未来を創造するだけでなく、過去にも目を向けられる知識人を育成するためだと考えます。考古学や歴史学はもちろん、文学や哲学など、文学部に存在する専攻の多くは先人たちからの伝言を解き明かしていく学問です。教訓という、先端の機械や様々な実験器具を用いても得られない知見を生み出すことができる研究分野の集積地だともいえるかもしれません。先に進むことを過度に求められる現代社会において失われつつある視点を文学部は「哲学」とは何ぞや。その問いを投げかけられた時、志を胸に抱く者であっても、即答することは中々難しいかもしれません。それは深遠で曖昧模糊であるからか、定義が多岐に渡るからか。しかし哲学の世界に身を置く中で、自然と「哲学とは何なのか」について思いを馳せ、自分なりの答えを見つけていくことになるでしょう。私が辿り着いた私なりの答えは、「哲学とは食欲である」というものでした。「知りたい」という飢餓めいた知識欲に突き動かされ、懐疑によって掘り出した理を、遥か遠き先達の残した言葉を、或いは今を生きる同志達と交わした議論を、なんてことはない日常の経験を、食らい、噛み砕いて、己の糧とする。それこそが「学ぶ」という行為の最も単純な形であり、 Philosophy ──「希哲/愛知」の本質であるのではないか、と。つまり、必ずしも研究過私の出身国の韓国でもそうだが、日本も同じく大学に進学するということは、単純に進学をする以上の特別な意味を持つ。年齢的にも成人を迎える時期でもあり、選択の自由度があがる。学びにも選択権が与えられ、今後の将来や人生に学びをどう結びつけるかと考え始める時でもあるだろう。選択には責任が伴う。時には後悔も伴う。だとしたら、後悔しないために、大学で何を学ぶべきかと悩む人も多いのではないか。出身学部が就職先や活躍業界に影響しやすいことを考えると、人文学という学問は、実践的には見えず、尖ってもないため、選択にやや不安があるかもしれない。私もそうだった。果たして、人文学を学ぶことは、将来的に不利な選択か。この問いに対し、私は迷わず「否」と答提供しているのです。今、私は日本史学研究室で日々古文書や史料に触れ、いにしえの人々が遺したメッセージを読み解こうと格闘しています。今日に至るまで、日本は感染症の流行や戦争に幾度となく苦しめられてきました。先祖がどのように難局を乗り越えてきたのか学ぶことは私たちに多くの示唆を与えてくれるでしょう。新型コロナウイルスの流行や大国間の対立など、将来が見通せず、前ばかり向いていられない世の中が到来している現代だからこそ、過去の人々と対話し、教訓や示唆を得る必要があるはずです。皆さんも名古屋大学文学部で、かつての時代を生きた人々と交流を深めてみませんか。程としての"哲学"に身を置かなければならないわけではないのです。社会や人間、自然、この世界の何かに疑問を抱き、「知りたい」と願う者は皆、「哲学者」なのですから。そして、そんな「哲学者」にとって大学とは、最高の食堂であり狩場です。膨大な知識の食材達が、貴方に見つけられる時を待っています。狩りの手法や調理の技を磨き、貴方の空腹を満たす結論を導き出せたならば、大学時代の経験は貴方の人生を鮮やかに彩ってくれます。その先社会に出たとしても、研究の道に身を置き続けたとしても。万人に必要なもので無くとも、学びの門戸は万人に開かれています。どの門を叩くのかは貴方次第。是非"愛知"の殿堂で、貴方だけのスペシャリテを創り上げてください。えたい。大学で人文学や社会学を研究したことは、人と人の関係そのものに対する深い理解と多角的な観察を試みる機会を与えてくれた。その経験は就職時にも、今の仕事にも大きく役立っている。社内外の合意形成や顧客対応、そして経営戦略を構想する際など、仕事をするうえで、実践的な知識も必要だが、私はそれを手段の一つだと考える。仕事の目的は、人と世界を善良な方向に動かすことである。人文学はそのような目的設定のうえで、つねに多くの手がかりを与えてくれる。有意義な目的設定に伴う社会貢献はつきものである。もし、私と同じような不安をいだく人がいれば、自分の思いを信じて人文学の扉を叩いたほうがよい。きっと人文学はあなたの期待を裏切らず、生涯を生きるうえでの力を注いでくれるに違いない。名古屋大学文学部 大学院人文学研究科過去との交流漁野あかね日本史学 4年生知を愛するということ小野田悠吾株式会社コスモス薬品 勤務哲学 2020年度卒業大学で「人文学」を学ぶこと金 玟秀(キム ミンス)株式会社星野リゾート・マネジメント 勤務社会学 2017年卒業学部在学生・卒業生からのメッセージ

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