8図説. 神経筋接合部において病的バリアントが同定された35遺伝子(赤字)疾患などの生命現象の多くは、複雑なメカニズムをもち、大きな個体差を伴うものですが、実際に生命現象のデータを収集し、解析することで、現象の背後にある法則性に関する推論が可能になります。当教室は、さまざまな医学研究でのデータの収集と解析に関する統計的方法論の研究と実践に取り組んでいます。私たちは、記憶や学習など脳が機能するための基本単位「シナプス」に着目した研究を行っています。シナプスは、脳の神経細胞1つあたり数万個存在する1マイクロメーターに満たない小さな構造です。私たちは、シナプスで働くタンパク質の振る舞いを様々な手法で調べて、シナプスの成り立ちや働きを調節するメカニズムを調べています。さらには、てんかんや認知症などの脳疾患でシナプスがどのように変化するかを調べて、脳疾患の病態を解明することを目指しています。以下の7つの主たる研究テーマに取り組んでいます。(1)神経筋接合部の分子構築とその分子病態・病態制御、(2) RNA代謝の正常制御と病態、(3) パーキンソン病の腸脳相関解析、(4) 筋・骨・軟骨・靭帯の分子構築と病態制御、(5) 分子状水素の分子作用機構、(6) 超微弱変動磁場の分子作用機構、(7) オミクス解析ツール開発と応用。(左図)神経細胞は、樹木のように突起を伸ばして、他の神経細胞の突起との間にシナプスを形成する。(右図)分解能をあげてシナプスを観察すると、シナプスではタンパク質が小さな塊「ナノドメイン」(緑色)をつくって働くことが分かってきた。なぜナノドメインを作る必要あるのだろうか。また、ナノドメインはどのようにして作られ、維持されるのだろうか。遺伝子がどのように機能するのか?この問いは、遺伝子と環境の相互作用によっておきる「がん」などの多くの疾病のメカニズムを理解する上で非常に重要です。私たちは、ゲノム・エピゲノム・RNAネットワークの関係性を読み解く技術・解析を統合することで、遺伝子制御とがんにおける異常を俯瞰的に研究し、がんの克服に貢献することを目指しています。がんは遺伝子異常を原因とする疾患です。遺伝子異常は細胞核内のDNAに傷がつく異常だけではなく、遺伝情報の使い方に問題がある場合も遺伝子異常としてがんの発生に影響します。私たちは疾患発症に関わる遺伝情報の使い方を研究することで、がん細胞を取り巻く生命現象の探究から、がんの弱点を狙う新しい治療法を開発することを目指しています。分子病理学分野では病理学・形態学に基づく病理組織標本の観察を基本に、がん細胞の移動・浸潤およびがんの間質(かんしつ)の線維化のメカニズムの解明とその治療応用を目指して研究を行っています。がん間質の線維化と心不全、腎不全、肺線維症などの線維化疾患の両者にみられる共通の分子の仕組みにも着目し、臓器横断的・疾患横断的な研究を展開しています。機能再生医学では、神経軸索伸長のメカニズムの解明に取り組んでいます。特にDystrophic endballと呼ばれる中枢神経損傷後の変性構造の理解と制御を通して、神経軸索の再生と、脊髄損傷や脳梗塞など神経損傷疾患の克服を目指しています。最先端のデータサイエンスを機軸に、膨大な生命情報を読み解くための数理モデルや情報解析技術を開発し、生命現象や疾病の理解に資する医学研究を行っています。特に、次世代シークエンサーを初めとする最先端技術より計測されるゲノムや遺伝子発現など網羅的オミクスデータを解析する人工知能(AI)技術の開発を行っています。機能分子制御学分野では、悪性腫瘍、神経組織や自己免疫疾患において重要な機能を果たしている分子の同定と作用機構を解明し、それを踏まえた難治疾患の新規治療法の開発をめざしています。とくにタンパク質に付加する糖鎖に注目し、増殖や炎症、分化のシグナルの調節機構を、糖鎖リモデリング細胞や遺伝子ノックアウトマウスの解析を通して明らかにします。さらに、Human Glycome Atlas Projectに参画し、ヒト検体の糖鎖分析から得られたデータから疾患の早期診断を目指します。●生物統計学●神経情報薬理学●神経遺伝情報学●分子腫瘍学●腫瘍生物学●分子病理学●機能再生医学●システム生物学●機能分子制御学研究・診療紹介Research / Medical care臨床医薬学神経疾患病態統御部門腫瘍病態統御部門先端応用医学部門
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