名古屋大学 医学部医学科案内 2025
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7調節因子が細胞内で働く機構を解析する生化学を担当しています。我々ヒトは左右の耳に到達する音の僅かな強弱や時間の差をもとに音のくる方向を特定します。この精度は非常に高く、我々が識別することのできる1度の角度は、両耳間の音の時間差として1/100000秒に相当します。この時間差は脳の聴覚神経回路で検出されます。神経細胞における活動電位の時間幅が通常1/1000秒であることを考えると、この聴覚神経回路がいかに正確な情報処理を行っているかが分かります。我々はこのような聴覚神経回路の働きを調べることにより、脳内の空間地図が作られるしくみを明らかにすることを目指しています。私達の生命が保たれているのは、体が備えている恒常性(ホメオスタシス)という性質のお陰です。これは、例えば、寒い環境でも体内で熱を作って体温を一定に保ち、体を横にしても血圧を大きく変化させないなど、体外の環境が変化しても体内の状態を一定に保つ働きです。恒常性に異常が生じることによって起きる病気はたくさんあるため、恒常性の仕組みを理解する研究は、医学において大きな意味を持ちます。体全体の恒常性を調節するのは脳であり、私達は、その神経回路の仕組みを研究しています。また、情動やストレス、感染が恒常性の神経回路に作用して病気を引き起こす仕組みの研究にも挑戦しています。さらに、物理的な刺激を細胞が感知し、応答する仕組みの研究も行っています。酸素を含む蛋白質、脂質、遺伝子(DNA、RNA)、ビタミンおよびホルモン等の神経回路再編機構とがん発生を主な対象領域として、両方に共通に働く分子の探索とその作用機構の解明を目指しています。これらの研究は、特に脊髄損傷、ALSのような神経変性疾患、神経芽腫のような難治性がんの克服を見据えたものです。また、この文脈に沿った分子機構として、腎障害や分子標的治療の研究も精力的に行っています。ヒトの癌および神経変性症などの難治疾患の原因と病態の解明を目指し、細胞の増殖・分化の制御に関わる遺伝子/タンパク質の同定と解析を行っています。とくに細胞膜に発現する糖タンパク質の糖鎖の網羅的分析による細胞間シグナル調節と外環境への反応機構につき解明すると共に、その成果をふまえた癌や神経疾患の新規の予防・治療法の開発を目指しています。音の時間差を検出する聴覚神経回路の3次元構造。脳組織を透明化する手法や複数の光タンパク質をランダムに導入する技術を駆使して、複雑な回路の配線の1本1本を可視化しました。それぞれの配線は異なる音の高さの情報を伝えています。感染したことを感知する脳内の“スイッチ”(受容体)蛋白質を緑色に染めました。これを持つ体温調節中枢の神経細胞(矢印)が「発熱せよ」と指令します。病理学とは病気の発生機構を研究する学問領域です。ヒトは鉄や酸素を利用して生きていますが、これらは諸刃の剣であり、条件により酸化ストレスを発生し、生体の様々な分子に傷害を与えます。その発がん・動脈硬化などへの関与を研究し、最近はアスベストによる発がん機構の解明や低温プラズマの医療応用に取り組んでいます。病理診断と病理医の育成にも寄与しています。腫瘍病理学教室は細胞の増殖、生存、運動能に関わる細胞内シグナル伝達系を解析することにより、細胞のがん化に重要な機能分子を同定する研究を進めています。これらの分子の機能について細胞レベルや遺伝子改変マウスを用いた個体レベルでの解析を行っています。同時に神経系の発生や神経疾患における役割についても解析しています。細菌やウイルスの病原性について研究する細菌学やウイルス学、高度に分化した免疫(感染症、アレルギー、癌免疫および臓器移植)の仕組みを研究する免疫学を担当しています。当研究室では人に病気をおこす様々な細菌に焦点を当てて、現代科学の最先端の技術を駆使して疾病メカニズムを研究しています。また近年、抗菌薬が効かなくなった細菌(薬剤耐性菌)が出現し国境を超えて世界中に拡散しています。薬剤耐性菌の流行について調査研究を行うとともに、新しい検査法や治療薬の開発に取り組んでいます。免疫学は多くの病気や日々の健康を理解するのに欠かせない学問となっています。私たちはマウスモデルやヒトサンプルを用いて、免疫系の基礎研究からトランスレーショナル研究までを進め、疾患の病態解明に向けた研究を行っています。特にT細胞応答の制御にかかわる分子の機能解析研究を進めています。ウイルスは病原体として医学的重要性をもつとともに、基本的な生命現象を解明するためのツールとしての有用性をもちます。当部門ではヒトを宿主とするヘルペスウイルスやインフルエンザウイルスを対象に、増殖機構、感染と発症の分子機構についての解析、及びウイルス感染症の制御を目的とした戦略的基礎研究を行っています。アスベスト投与によりラット腹腔内に発生した悪性中皮腫人の胃に感染するヘリコバクター・スイス●細胞生理学●統合生理学●分子生物学/生体高分子学●分子細胞化学●生体反応病理学/分子病理診断学●腫瘍病理学/分子病理学●分子病原細菌学/耐性菌制御学分野●分子細胞免疫学●ウイルス学細胞科学講座生物化学講座病理病態学講座微生物・免疫学講座

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