名古屋大学 農学部案内 2025
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1996年、名古屋大学大学院農学研究科畜産学博士後期課程中退、日本学術振興会特別研究員、名古屋大学大学院生命農学研究科助手、同准教授等を経て、2008年、名古屋大学大学院生命農学研究科教授、2008年〜2011年、鳥類バイオサイエンス研究センターセンター長、2013年、高等研究院トランスフォーマティブ生命分子科学研究所教授マウスの活動リズムを調べるウズラの光周反応を観察する動物統合生理学吉村 崇 教授 博士(農学) 私たちの研究室で取り扱うテーマは、食料に係る経済問題全般です。その中で、私が力を注いでいるテーマは2つあります。1つは、消費者の食品購買行動の分析です。これは消費者が食品を選ぶときに情報をどのように、どの程度利用しているのか、または、正しい食品情報を消費者に届ける社会的なしくみはどうあるべきか、などを研究しています。消費者が正しい食品情報に等しくアクセスできて初めて、「食」の豊かさや安全性が守られるのですが、現実には情報の格差やゆがみのせいで「無知から生じるコスト」が発生しています。このような課題に対して、私たちは解決への処方箋を提案しています。 もう1つは、農業政策のあり方を、国際比較を通じて研究することです。この研究は、現在、酪農業に焦点をあて取り組んでいます。自由貿易が拡大する中、これからどういう酪農経営をめざすべきか、農家を支える制度はどうあるべきかなどを行政に提言、社会に発信できるよう研究しています。この分野は理論的な研究だけでは正解を導けません。農業の現場に足を運び、地域ごとによって異なる社会的な特性をしっかりと踏まえて、あるべき姿を追求しています。 研究室では留学生も含め、経済学、統計学、心理学、社会学などを駆使し、「食」の安全や安心、農家の発展にいかに貢献できるかを熱く議論を重ねています。 自然界の動物は、冬眠や渡り、毛の生え変わりなど、季節の変化にみごとに対応した正確な生体リズムを刻んでいます。アリストテレスもこの変化に気づいていましたが、日照時間(日長)の変化との関係が報告されたのは1920年。以来、さまざまな動植物の日長の変化に応じた生理機能の変化(光周性)の研究が進むようになりました。 しかし光周性のメカニズムが遺伝子レベルで明らかにされたのはごく最近のことです。とくに私たちの研究室がウズラやマウスを研究モデルとして光周性を制御する遺伝子を世界で初めて特定してからは、動物が視覚を司る光受容器とは別の新規な光受容器で光を感じ取り脳に春を告げるホルモン合成を指示していることが明らかになってきました。光周性を制御する遺伝子がわかったので、日長の違いをどう認識しているのかを遺伝子レベルで明らかにする研究をさらに進めています。 ニワトリ、ウズラは牛や豚に比べて少ない■で短期間に成長し、宗教的な禁忌もないので、私たちの研究成果は世界の食糧問題の解決に貢献できます。さらに季節性感情障害という人の病気にも貢献することが期待され、その応用の世界が広がりつつあります。2004年、京都大学大学院農学研究科生物資源経済学専攻博士後期課程修了、日本学術振興会特別研究員、フィレンツェ大学客員研究員、日本大学生物資源科学部准教授等を経て、2016年、名古屋大学大学院生命農学研究科准教授国際比較データを教員とともに検討する食料経済学竹下 広宣 准教授 博士(農学)ゼミでは英語を使って発表する名古屋大学農学部案内 202512農業経済学をベースに、理論とともに現実の課題に真■に向き合い、「食」の安全と安心、農業の発展に貢献していきます。鳥類、哺乳類の光周性を制御する遺伝子を世界で初めて発見。その瞬間に立ち会えた時の興奮は、研究者だけに与えられた特権かもしれません。

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