「幼児と一対一で地道に個別実験。子どもとのかかわりの中で新たな関心や研究の種が生まれます。」「日本の子ども」の社会的認知に関する発達心理学的研究を通して新たな知を世界に発信07GUIDE TO NAGOYA UNIVERSITY 2025Researcher日本の子どもの「心」の理解「日本の子どもは、どのように他者の「心」を理解し、どのように他者とかかわっているのか?」。このことに関心を持ち、幼児期・児童期の子どもを対象とした発達心理学的研究を実施しています。 人間の「心」は目に見ることができませんが、私たちは日常生活において、絶えず、自他の背後にある「心」について考えながら、対人コミュニケーションを営んでいます。「心」の理解に関する発達心理学的研究は約40年前に欧米で始まり、「心の理論」研究として進展してきました。私もこの研究の流れの中、「心の理論」の発達という観点から研究を重ねてきましたが、進めていくうちに欧米の発達研究が示してきた「スタンダードな発達の姿」が必ずしも日本の子どもにあてはまらないことを感じ、徐々に、日本の子ども特有の発達の姿を発見し、発信していくことの重要性を意識するようになっていきました。発達の多様性の国際的理解を進展 現在は、日本の子どもとイギリスやイタリアなどの他国の子どもの発達の比較を通して、人間の「心」の理解がどのように形作られているのかについての検討も進めています。例えば、私が行った日英の幼児の比較文化研究では、他の子どもの「嘘泣き」を見た時に、日本の幼児は、イギリスの幼児よりも、「嘘泣き幼児は、イギリスの幼児よりも、「嘘泣き」からより多くの援助のニーズを読み取り、嘘泣きの行為者を「心配して、慰める」と判断することが明らかにされています。日本文化においては、明示されていない他者の気持ちや考えをくみ取ることが重視され、また、日本の子どもは、欧米の子どもと比べて、泣きや怒りなどのネガティブな感情表出の抑制を期待されています。そのような、文化的なものの見方や考え方が、子どもに滲みこんで、「嘘泣き」の認識に文化差をもたらしたのではないかと考えられました。この研究成果をまとめた論文は、2022年に『Japanese Psychological Research』に掲載されました。人間の「心」の理解の発達の文化的多様性を実証した研究として、広く世界に届くことを期待しています。 研究の方法としては、保育所・幼稚園・小学校等の保育・教育現場へと地道に通い、子どもとかかわりながら実験・調査・観察研究を実施しています。一対一での幼児の個別実験は累計1,000名以上。実証的研究の中で新たな気づきや発見があり、次の研究関心の種が生まれています。 私と同じように『子どもの心の発達』に関心を持って研究を行う場合も、その問題に迫る方法は無数にあります。学生の皆さんは自分の関心にどのようにアプローチし、真実を明らかにしていきたいのか、大学での学びをふまえ、吟味し、納得できる方法で、自分自身の問題探求に取り組んでいただきたいと願います。MIZOKAWA Ai大学院教育発達科学研究科心理発達科学専攻心理社会行動科学講座 准教授PROFILE専門は認知発達心理学。京都大学大学院教育学研究科 博士課程修了。博士(教育学)。日本学術振興会特別研究員DC1、日本学術振興会特別研究員PD、明治学院大学心理学部助教、椙山女学園大学人間関係学部講師を経て現職。日本心理学会優秀論文賞受賞、日本心理学会学術大会優秀発表賞受賞など。名古屋大学の研究者たち溝川 藍01
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