「難治性がん治療に有望なCAR-T細胞療法を日本から世界へ広げたい。」新たながん治療を安全で安価に「CART細胞療法」を開発名古屋大学の研究者たちCAR-T細胞療法の効果と課題純国産CAR-T細胞の治験を開始-TAKAHASHI Yoshiyuki名古屋大学大学院医学系研究科・小児科学教授名古屋大学医学部附属病院・副病院長(広報・基金・国際担当)同・小児がん治療センター長・ゲノム医療センター副センター長小児科の血液腫瘍学を専門とし、主にがん免疫療法「CAR-T細胞療法」の研究と臨床を行っています。CAR-T細胞療法は、患者さんのリンパ球から取り出した免疫担当細胞を遺伝子改変し、培養して再び体内に輸注する治療法で、難治性がんに対して最も将来有望な治療法の一つとして注目されています。しかし、普及するには課題もあります。通常、CAR-T細胞は遺伝子導入にウイルスを用いるため、厳重に安全管理がされた大規模な専用工場と高い製造コストが必要になります。日本で承認される薬は3,000万円以上と高額で、日本・韓国を除いたアジアの国ではまだCAR-T細胞製剤の承認がされていません。 その課題を克服するため、名古屋大学は信州大学と共同で、ウイルスの代わりに天然酵素を遺伝子導入に使用したPiggyBacトランスポゾン法による製造技術を開発(特許出願)。この特許技術を使えば、専用工場を建てなくても各病院や大学の無菌室などで、安全かつ価格の安いCAR-T細胞の製造が可能となります。 2018年にタイのチュラロンコン大学から製造技術支援の要請を受け、2020年10月、同大学にて世界で初めてPiggyBac法で製造したCAR-T細胞が再発・難治悪性リンパ腫の患者さんに投与されました。ベトナムやインドからも支援要請を受け、臨床研究が進められています。 開発したPiggyBac法CAR-T細胞の薬事承認のための治験を進めるため、愛知県蒲郡市の企業とライセンス契約を結び、製造・輸送業務を委託。再発・難治の悪性リンパ腫を対象に、全国5施設で医師主導治験を2024年8月より開 始しました 。現 在日本で 承 認されるCAR-T治療では対象外となる12〜17歳の方も対象としています。治験第1例目である16歳の患者さんへの投与は、日本初の快挙となりました。 一方、2023年4月にイタリアから再発・難治性神経芽腫を対象としたCAR-T細胞療法の素晴らしい報告がありました。報告された同小児病院の医師から名大への療法開発への協力依頼を得るとともに、再発神経芽腫(当時9歳)の患者さんがクラウドファンディングや小児がん基金などによる多額のご支援のもと、イタリアでの治療の実現に至っています。 さらに2024年1月には名大発のベンチャー企業を立ち上げ、他の疾患への開発や海外展開を目指しています。本邦発の知財を用いた、より安全で安価なCAR-T細胞療法が世界中に広がることを願っています。PROFILE専門は小児科血液腫瘍学、名古屋大学大学院研究科 医学博士。日本小児科学会理事、日本造血・免疫細胞療法学会理事、日本血液疾患免疫療法学会理事、日本小児がん研究グループ SCT 委員など07GUIDE TO NAGOYA UNIVERSITY 2026Researcher高橋 義行01
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