「キスペプチンによる生殖制御メカニズムを解明し、未来の食生産に貢献したい。」ほ乳類における生殖機能制御の中枢メカニズムを解き明かすat ResearchersiversityNagoyaUn排卵を引き起こす脳内の仕組みを解明持続的な食料生産の向上を目指してINOUE Naoko大学院生命農学研究科動物科学専攻 動物生殖科学 准教授名古屋大学副総長補佐(国際担当) 動物生殖科学研究室においてラットなどの実験動物をモデル動物として用い、ほ乳類の生殖機能を制御する脳内メカニズムの解明に取り組んでいます。最近は特にキスペプチンを中心とした研究を進めています。 キスペプチンは2001年に発見され、ほ乳類の生殖を制御する最上位の神経ペプチドとして、生殖生理学分野で高い注目を集めています。本研究室では世界におけるキスペプチン研究の拠点の一つとして、キスペプチンによる性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)放出制御の機構について、数々の謎に迫ってきました。 そんな中、私たちの研究グループは、一般的には細胞内のエネルギー通貨として知られるアデノシン三リン酸卵を引き起こす仕組みを世界で初めて明らかにしました。本研究では、いわゆる女性ホルモンであるエストロジェンが後脳由来のプリン作動性ニューロン(ATPを放出する神経)の活動を刺激し、神経伝達物質ATPがATP受容体を介して排卵中枢キスペプチンニューロンを活性化することで、GnRHとその支配下の黄体形成ホルモン止めました。本研究の成果はほ乳類全般に共通する知見であるため、家畜の排卵障害やヒトの生殖医療における不妊治療などへの応用が期待されます。(ATP)が、脳内で神経伝達物質として働き、ほ乳類の排(LH)の大量放出、ひいては排卵を引き起こすことを突き 現在、日本における家畜(ウシ)の生産はほぼ100%人工授精や受精卵移植によるもので、受胎率は60%を切っている状態です。また、牛のゲップの中に含まれているメタンガスが、地球温暖化の一因であることが大きな課題となっています。そのため世間では肉を食べない風潮や、肉に代わる食料として植物由来の代替肉や昆虫食などにもスポットが当たりました。そのような時代背景において、私たちは研究成果の応用によって家畜の生産効率の向上に資する新たな繁殖制御法の開発へとつなげ、メタンガス排出量の低減や未来の食生産に貢献していきたいと考えています。 私は学生時代に名古屋大学で農学を学び、先生方から常々「農学は平和の学問」だと教わってきました。お腹が空いている状態だと紛争も起きやすくなり、食が豊かになって世界中の人々のお腹を満たすことができれば平和に近づくということを、研究者として今改めて実感しています。 動物生殖科学は畜産・食品・栄養・遺伝・製薬・健康・環境・ITなど幅広い分野につながる、とても面白い研究分野だと思っています。興味のある方は一緒に研究をしてみませんか。PROFILE専門は、動物生殖科学。京都大学大学院農学研究科博士後期課程中途退学 博士(農学)。日本繁殖生物学会 評議員 将来計画検討委員会委員長、日本繁殖生物学会奨励賞、The JRD Outstanding Paper Award 受賞。GUIDE TO NAGOYA UNIVERSITY 202608Researcher井上 直子02
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