iii-基礎と臨床の垣根を超えた医師、PhyscanScentistを目指して医学部を目指すみなさんへ 皆さんは、医師にどのようなイメージを持っていますか? 今、テレビ等で新型コロナウイルス感染症患者を治療する医師の活躍が大きく報道されています。現場の第一線で、患者を救う、「臨床医」です。その印象が強いのではないでしょうか。あるいは、フラスコやピペットを片手に薬を開発する「基礎研究医」を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。私は自分自身を、「Physician-Scientist」と考えています。基礎と臨床の垣根を超えた「医師兼研究者」、という意味です。一体、どんな医師を言うのでしょうか?この場を借りて紹介したいと思います。 私の専門は、血液の病気、特に白血病や、悪性リンパ腫といった、血液のがんを扱う血液内科です。私が医師になった頃は、ちょうど白血病に対し、骨髄移植が行われるようになった時期でした。新しい治療で多くの患者が治る!大きな期待を持ち、初期研修終了後、私は血液内科医となることを選択しました。 意気揚々とその道を歩み始めたのですが、そこで目の当たりにした現実は厳しいものでした。骨髄移植の恩恵を受けるのは一部の患者さんにすぎず、それどころか、未だ有効な治療薬の無い病気が、想像以上に多かったのです。大変な思いをして病気と闘う患者さんを前に、病気の原因の解明と治療薬の開発の必要性を改医学部というのは多くの人は高校卒業と同時に、生涯向き合う職業が決定する、数少ない学部です。しかし、医学部志望のみなさんが、医師という職業を100%理解して医学部を志している訳ではないと思います。私も入学前には決して明確なビジョンがある訳ではありませんでした。ただ、私が思うのは、医学において誰しも自分に合った分野が必ずみつかるだろうということです。内科系でじっくり考えて診療にあたりたいという人もいれば、外科系で自分のメスで命を救いたいという人もいるでしょう。他にも研究者や産業医、医療機器の開発者など医師として活躍できる領域は無限に広がっています。時間をかけてじっくりと、自分の理想とする医師像をみつけて欲しいと思います。日本において全学部の中で最も忙しい学部はどこかと問われれば、医学部であると私は思います。試験、実習等の大変さは他学部の追随を許さないでしょう。しかし、世界の医学部生に初めまして。新潟大学医学部医学科卒後1年目の内田直希と申します。現在、新潟大学医歯学総合病院にて初期研修医として働かせていただいております。この度、「医学部を目指すみなさんへ」という題目で筆を執らせていただきました。新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう時代において、医師という職業への期待は日々高まるばかりです。このような時勢のなか、新潟大学医学部に興味を持っていただき大変うれしく思います。めて感じた私は、大学院に入りました。そして細胞の中の分子同士の働きとその異常のしくみを解明する学問である分子生物学を学びました。この経験により、細胞の中でどんな分子が、どのようなネットワークを作り、どんな働きをしているのか、そして病気の原因となる分子は何か、明らかにする手段が身につきました。 大学院を修了し、臨床医として再び活動を始めた時、一人の患者さんに出会いました。彼女の病気は慢性活動性Epstein-Barrウイルス(EBウイルス)感染症、略してCAEBV。ほぼすべてのヒトが感染しているEBウイルスが原因で起こるリンパ球の腫瘍です。稀な病気のため、研究が進まず、有効な治療薬もありませんでした。さらに、患者さんは日本をはじめとする東アジアに集中しており、欧米ではほとんど見られません。日本人医師である私はこの病気を解決する責務がある、と強く思いました。病気の原因を解明するためには、患者さんの細胞を調べる必要があります。患者さんにその話をしたところ、「ぜひ私の細胞を使ってほしい」と、研究のために血液細胞を提供してくれたのです。何人もの患者さんがそれに続きました。そして、その貴重なサンプルを解析した結果、様々なことがわかりました。その一つが、STAT3というたんぱく質の異常です。それを狙い撃ちにする治療薬で、CAEBVはよくならないか?現在、その研究を進めています。近い将来、必ずCAEBVのすべての患者が治るようになると信じています。 Physician-Scientistとは、臨床医、基礎研究者の両方を兼ね備えた医師です。その強みは臨床医の視点から現場で真に重要な問題を洗い出すことができ、それらを基礎研究者の技術と知識で実際に解決できることです。目の前の患者さんの問題解決はもちろん、未来の治療へと発展し得る非常にやりがいのある仕事です。医学の進歩は目覚しいものがあります。しかし、残念ながら、臨床の現場では、まだまだ解決されていない問題が数多くあります。私は、「その答えをだし、患者さんに、社会に還元する」を目標とし、これからも、Physician-Scientistとして、診療、研究を行っていきます。皆さんはどのような医師を目指しますか? ぜひ一緒に頑張ってみませんか?比して、日本の医学生は自由に使える時間が相当にあるとされています。制度の違い等から単純な比較はできないにしても、この自由多き学生生活を国家試験合格のためだけに費やすのはあまりにもったいないです。自分の興味のあること、取り組みたいことに人生で一番没頭できるのは大学時代であると思います。新潟大学の先生方は世界に目を向けるということを常に学生に指導してくださいます。新潟大学は単に新潟で活躍する医師を育成する場所というだけではありません。世界の第一線で活躍できる医師の育成する場所なのです。新潟大学の特色あるプログラムとして、医学研究実習が挙げられます。3年次の2か月間、自分の関心のある研究室に配属され、研究を行うことができます。私は細菌学に興味を持ち、東京にある国立感染症研究所にて淋菌の研究を行いました。また、希望すればアメリカ、ロシア、マレーシアなど世界各地で研修を行うこともできるなど、世界の医療の現場を学生のうちから肌で感じることができます。これは長い歴史を持ち、日本・世界で活躍される優秀な医師を多く輩出している新潟大学だからこそ為し得ることであると思います。私は東京で生まれ育ちましたが、大学進学のため新潟に移り住みました。新潟大学医学部は政令都市新潟市の中心地にあり、万代・古町といった繁華街にも近いため生活する上で何一つ不自由のない立地だと思います。関東圏からのアクセスも良好であり、私のように東京出身であっても、心地良い学生生活を送ることができました。私が大学卒業後も東京に戻らず、新潟大学にて研修を行っていることは、なによりも新潟が過ごしやすい土地であるということの証明だと思います。風光明媚な新潟の地で、歴史と伝統ある新潟大学医学部にて学ぶことは必ずや人生にとって大きな財産となるでしょう。皆さんと新潟の地でいつか出会える日を楽しみにしています。14新潟から始まる医学への道新井 文子聖マリアンナ医科大学 内科学(血液・腫瘍内科学)教授東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 血液疾患治療開発学 教授1988年新潟大学医学部卒業。東京医科歯科大学医学部入局、2019年より現職。2人のお子様の出産、育児を経て、血液内科医、Physician-Scientistとして、特にEpstein-Barrウイルスが原因で起こるリンパ球の腫瘍の原因がSTAT3の異常であることを解明され、さらに新しい治療法の開発に取り組んでいらっしゃいます。内田 直希国立東京学芸大学附属高等学校卒新潟大学医歯学総合病院 初期研修医
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