大阪大学 GUIDEBOOK 2021
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 山田講師の研究の基礎は、サルの研究を通じて、生物としてのヒトの行動、社会、その進化を探究することにあります。もともとは心理学や文化人類学に興味がありましたが、「人間の文化や社会は非常に多様。それらの多様性を知るだけでなく、人間社会に共通する普遍的な特徴やヒトの起源を明らかにすることも、人間を知ることにつながるのではないか」と考え、ヒトと比較的近い共通祖先をもつ霊長類であるニホンザルの研究を始めました。「協力行動、寛容性などといった性質が、なぜヒト以外の動物には少なく、ヒトには多いのか」に関心をもっています。 もともと、勝山の野猿公園に生息するニホンザルを研究していたのですが、14年前、淡路島モンキーセンターから指導教員に届いた年賀状の写真に驚かされました。「約150頭の猿が体を寄せ合い、干支にちなんだ戌(いぬ)の形に並んでいたんです。エサを文字の形に撒いておくと、サルが集まってきて“サル文字”を作るのです」。勝山のサルは順位関係が厳しく、個体同士の距離が近づくとすぐ喧嘩になってしまうのでサル文字を作ることはできません。むしろ、勝山のような厳格な順位関係がニホンザルの世界では典型なのです。 なぜ、淡路島のサルは食べ物をシェアできるのでしょうか。「1970年代に淡路島で研究していた阪大の先輩たちが、ニホンザルの7つの集団を比較し、淡路島のサルが特異的に寛容な社会を形成していることを発見しました。その後、淡路島のサルが特殊な遺伝子のパターンをもっていることも明らかになってきます。しかし、淡路島のサルのなかにも攻撃性の高いタイプの遺伝子をもつ個体がいるのですが、必ずしもその個体の攻撃性が高いわけではありません。ということは、要因は必ずしも遺伝子だけではなく、淡路島のサルたちが食べ物を分け合う文化・環境のなかで成長発達することが、彼ら・彼女らの行動と社会を形作る要因にもなっているのだと考えています」。それらの要因を探るべく、山田講師は勝山と淡路島のサルの協力行動を比較する実験観察などを続けています。「サルにも多様な文化があると知ることは、人間を理解するうえでも意味があります」。サルの社会にも多様性があるモンキースカウターのイメージ図淡路島モンキーセンターのサル文字(淡路島モンキーセンター提供)サルの実験観察山田講師にとってとは自分のなかで、「研究」と「研究でないもの」の境目が非常にあいまいで、例えば子どもと遊んでいるときも、「子どもが考え、行動する理由」に、つい目が向いている気がします。ヒトと動物が行動し、生きることについて、いつも考えているのかもしれません。自分でない存在に興味をもって、動きや関係性を観察する。結局はこういう営みが研究かもしれません。大阪大学の最先端の研究をWebでもご覧いただけます。研究特集教育システムインフォメーション大阪大学の研究3キャンパスライフ

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