大阪大学 GUIDEBOOK 2021
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 普段は、ルリキンバエという大型のハエや、カメムシ類などを使って研究。「ルリキンバエは秋に日が短くなると休眠に入り、卵を産まなくなります。日長条件を変えて5日目くらいから変化が出てくるので、脳ではより短期間のうちに、おそらく短日・長日が何日続いたら卵巣を発達させよ、ホルモンを出せ・出すなというような指令が起こっていると考えられます」。志賀教授は、その3~4日の間に脳で何が起こっているのか、また光を読み取る仕組みについて、時間軸を追って脳細胞を追いかけようとしています。 「1日だけの日長は卵巣発達に影響せず、何日間長日があったか、日数を数えて反応が起こります。このことから、概日時計が何サイクル回っているかの情報を貯めるメカニズムが、脳内のどこかにあると考えられるのです」。 比較神経生物学研究室のユニークな点は、キイロショウジョウバエなどのモデル生物を使わないこと。特殊な条件のもとで育てられたモデル生物ではなく、自然環境のもとで生きる生物で研究したいという思いから、ルリキンバエを1~2年に1度、学生たちと一緒に北海道まで採集に行き、清潔な環境で繁殖させています。 また、手作りの小さなナイフを使って昆虫の脳に微細手術を施す実験の方法も同研究室の特徴。「ハエの頭の神経細胞の一部を染色・除去して、光周性に対する反応がなくなるかを見ています。細かい作業ですが、慣れれば手術自体は数分でできる実験です。他のラボでは、モデル生物を使った遺伝子組み換えによる研究が多いです。これまでに多くの研究者が概日時計の遺伝子が光周性に関わると証明してきましたが、どの細胞が重要かということを示したのは私たちだけです」。昆虫の比較実験から生物の進化の多様性を探る研究は、これからも続きます。昆虫の細胞除去手術の様子。顕微鏡を覗きながら、手作りの小さなナイフを使って昆虫の脳に微細手術を施す(オオクロコガネ)。ルリキンバエは数日間の長日により卵巣を発達させ(図下)、短日により卵巣発達を抑制した休眠に入る(図上)。温度、日照時間が管理されたルリキンバエの飼育器ピンセット、マチ針、生理食塩水など身近なもので手作りする手術道具ルリキンバエの脳側方部の細胞を除去し、休眠調節を司る神経分泌細胞を突き止めた。昆虫の脳が光を読み取る仕組みを探る手作りツールで微細手術志賀教授にとって学問の道を作ること。研究成果をコツコツと世界へ発表することにより、道を敷いていく。何かひとつやりたいことがあれば、人は生きていけると思っています。私にとっては、それが研究。今は研究が生きる力のようなものです。毎日ここに来て、学生と語り、研究する生活を楽しんでいます。とは研究大阪大学の最先端の研究をWebでもご覧いただけます。特集教育システムインフォメーション7大阪大学の研究キャンパスライフ

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