大阪大学 GUIDEBOOK 2023
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 世界を震撼させた新型コロナウイルス感染症(COVIDー19)。1918〜1920年に猛威を振るったスペイン風邪以来の、100年に1度と言われるパンデミックは私たちの生命や健康を脅かし、社会経済活動にも大きな傷跡を残しました。一方で、従来なら考えられなかった速さでワクチンや治療薬が開発され、IT技術を駆使して社会生活を守る試みもありました。コロナ禍の最前線で診療にあたった医学系研究科の忽那教授(感染制御学)は「人類の歴史は感染症との戦いの歴史ですが、グローバル化の進展や地球温暖化で、新興感染症の発生間隔が狭まっている」と警鐘を鳴らし、次への備えを訴えています。4PROFILE忽那 賢志(くつな さとし) 2004年山口大学医学部医学科卒業。08年奈良県立医科大学附属病院感染症センター医員、10年市立奈良病院感染制御内科医長。医学博士(山口大学)。12年国立国際医療研究センター国際感染症センター医員(フェロー)、18年同センター国際感染症対策室医長、20年大阪大学医学部附属病院感染制御部部長、21年同大学院医学系研究科教授および同大学感染症総合教育研究拠点人材育成部門副部門長。〜コロナ禍で挑む感染症専門医の研究と人材育成〜回復者の血漿で治療 備えのひとつに、回復者血漿療法の研究があります。新型コロナウイルスに感染し、回復した人から採取した血漿(血液から赤血球や白血球などを取り除いたもの)を、新たな患者に投与する治療法です。回復者の血漿には、病原体を攻撃する抗体が豊富に含まれています。アメリカで緊急使用が承認され注目されていますが、有効性は現時点では確立されているものではなく、多くの症例を蓄積し、治療効果や安全性を慎重に評価していくことが不可欠です。 忽那教授は「スペイン風邪でも使われた古典的な方法ですが、現在はより質の高い血漿を選ぶ技術があります。この手法は新型コロナ以外にも転用できる。次の感染症が現れてもすぐに使える体制を整えておくことが大切」と話します。 患者の基礎疾患の有無や病状、治療内容、後遺症などのデータを蓄積するレジストリ研究も重要なテーマ。従来は診察した医師がデータを入力していましたが、患者が自らスマホのアプリを使って入力する方法も試みています。「どんな人の重症化リスクが高いのか、どんな後遺症がいつ頃まで続くのか、ワクチン接種の副反応にどのようなも医学系研究科 教授 忽那 賢志大阪大学の研究 〜知を拓く人、新たな探求と挑戦〜次のパンデミックに備える

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