大阪大学 GUIDEBOOK 2025
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は有性生殖のルールを書き換えた」と評しました。 林教授自身は「10人」に選ばれたことに「感動や感激より、なぜ僕なのだろうというのが第一印象。そこを目指してやってきた訳ではなく、結果自体はテクノロジーの1つの出口ですから」と冷静に語ります。しかし、発表以来、米国を中心に市民団体などからも含めて多くの講演依頼が寄せられており、改めて関心の高さを実感しています。 「男性カップルが子どもを持つ可能性について頭になかった訳ではありませんが、そもそもの入り口は染色体異常の問題でした」。林教授は、研究をそう振り返ります。「生殖には性染色体が重要です。例えば女性のX染色体が1本欠けるターナー症候群は、ほとんどが不妊になります。染色体異常があると卵子ができないことが多く、それを何とかできないかというのが動機でした」。 林教授は京都大学や九州大学在籍時から、マウスの多能性幹細胞を使って精子や卵子を作ることに成功しています。これらの技術は「卵子や精子を作るだけでなく、そこに至る過程を体外で再現できる」ことに利点があるといいます。「人の場合、卵子を作るための重要な過程の大部分は赤ちゃんのときに起きます。それを培養中に体外で見られれば、卵子ができない要因などを知ることができる。基礎研究として何かを知るという点からも重要なツールになります」と説明します。 人への応用は「原理的にはマウスと同じだが、細胞の培養にかかる時間などの条件も違ってくる」ため、まだ10年ほどを要するといいます。さらに、技術的に可能となったとしても「2人の男性から生まれた子どもが置かれる境遇」などの倫理的、社会的問題も含め、事前に広範な議論が求められると考えています。 「柔軟にテクノロジーの可能性を見せ、広げていくのも私たち基礎研究者の大事な役目です。加えて科学的見地から安全性について示す必要もあります。しかし、技術を使うか使わないかを決めるには、社会的なさまざまな検証が必要だと考えます」。 今後も、人や絶滅危惧種を含む動物への応用を視野に入れながら研究を進めます。 チームは近年、近縁種であるミナミシロサイで体外受精による妊娠に世界で初めて成功。キタシロサイでも、雌の生体から取り出した卵子に、保存してあった雄の精子を受精させたうえで代理母となるミナミシロサイへの移植を進める予定といいます。林教授は22年、キタシロサイのiPS細胞から、精子や卵子のもとになる始原生殖細胞に似た細胞を作ることに成功しており、遺伝子的に多様性を持たせるための技術貢献などが期待されています。 この研究も、実用化に10年はかかるといいます。「その頃、僕はもう引退(の年齢)です。こういう研究はリレーなので、若い人にどんどん引き継いでもらいたいですね」。大阪大学の最先端の研究をWebでもご覧いただけます。3特集教育システム大阪大学の研究キャンパスライフインフォメーションキタシロサイ救済にも協力 絶滅危惧種については、林教授は2013年からキタシロサイの救済活動に関わっています。 アフリカ中央部に生息したキタシロサイは、1960年代には2,000頭余が確認されていましたが、密猟や内戦、環境破壊などの影響で激減し、世界に母娘の雌2頭しか現存しません。自然繁殖は不可能なため、国際的な研究者チームが絶滅から救うプロジェクトに取り組み、林教授も協力しています。奥深い生命科学 林教授が研究者を志したのは修士課程1年の頃。「受精卵を初めて見て感動したという単純な理由です」。受精卵が発生する様子を見て「細胞はどうやってできるのだろう」と不思議に思ったことが、研究者として探究する「覚悟」を持つきっかけになったといいます。「それから30年になりますが、研究対象は基本的に変わっていない。進化がないですね」と笑います。 研究の場としての大阪大学については「めちゃくちゃいいところ」と断言します。その理由を「分野、人数とも豊富な、さまざまな研究者がいる。しかも、研究者同士の垣根がとても低くて、協力し合う学風がある。その点は他の大学より優れていると思います」と語ります。 林教授の研究室には、小・中学校や高校の先生らから「研究の話を聞かせてほしい」という依頼が来ることがあります。「啓蒙も僕たちの役目」と考え、時間が許せば受けるようにしているといいます。若い人に科学への関心を深めてほしいという気持ちもあるようです。 「生命科学はすごく奥が深い。医学、細胞、生物学、進化、環境など多くの学術分野にまたがった基盤となる学問なので、広がりがあり、汎用性も高い。いろいろな分野から入って来てほしい」。そしてこう呼びかけます。「私たちもそうでしたが、研究は先人が作ってきた知恵のうえに成り立つ。若い人はそこからもっと先に行けます。歩みを止めず、さらに積み上げてほしい」。林教授にとって生きる糧であり、趣味であり、友達。研究していると一日があっという間だし、目の前に疑問ややりたいことがあるのがモチベーションになります。研究の9割以上は苦しくて、思い通りに行くのは1割以下。僕は「たのくるしい」と言っています。でも、苦労が多いほど、うまく行ったときのうれしさも大きい。失敗のストレスが、うまくいったことで全部ほどけていく。その瞬間は至福です。とは研究

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